第49話 アクリラ隊
中位クラスのベルーラスとの乱戦はなかなか終わる気配がない。アクリラは決戦を黙って見守るだけで、まるで動こうとしない。その間にも死傷者が増える。
ソルの苛立ちはピークに達していた。
「きたな……」
アクリラは決戦を睨みながら呟いた。すると西の方角から強い魔力をソルは感じた。
西の空をソルが見ると、十人の男の魔導士官が空から飛んできた。魔力の泉でアクリラの男になるために生きている男達だった。
魔導士官達の魔力の大きさに、ソルや共和国軍の士官達は驚く。将官クラスを越えた魔力を持つ者達がこんなにもいるとは誰も思っていなかった。
「アクリラ隊とでも名付けるか」
アクリラは言った。士官達の驚きにアクリラは不遜に笑う。
「私が鍛えれば、ざっとこんなもんよ」
なおもアクリラはソルに言う。
「じゃあペルフーメは?」
「あの天才児なら、すぐにアクリラ隊を越える魔力を持てるわ。でもまだまだ子供。まだ参戦するには早いから、魔力の泉でお留守番をして、結界に魔力を送っているわ」
そうこう言っている間に、密かに待機していた十名の司教士官と、十名の剣士官達がやってきた。階級は皆少佐クラスだったが、司教士官の魔力はその階級よりも大きかった。十隊のトリクルが、アクリラ隊として結成された。
「ではとっとと行こうか。まもなく覇王もくるだろう」
ソルにはアクリラは決戦を楽しんでいるように見えた。アクリラは大魔導士に頷いた。
「アクリラ隊、参戦せよ! とにかく今出ているベルーラスを蹴散らせ」
大魔導士が号令をかけると、アクリラ隊は決戦の戦場に即座に向かう。魔導士官達は空を飛び、司教士官と剣士官は走り出した。
「ソル、バレン。そろそろ私達もいこう。もうじき覇王もくるだろう」
アクリラはそう言うと、一人で勝手に空を飛んで行く。まだ覇王の姿もなく、ソルはどこに走っていいのかわからないが、ともかく宙に浮いて飛んでいったアクリラを追いかけ始める。
「ここにいても退屈だろ。おまえらもソルを追いかけたらどうだ?」
アクリラが現れ、アクリラ隊が結成されたかと思えば、もうソルが戦場の荒野に駆けだしていた。急激に変わるその状況に唖然としていたフスティーシアとコルテに、サビドが提案していた。
「じゃあソルを無事に覇王まで送り届ける護衛をしようか、コルテ」
「でも覇王や、他のベルーラスが襲ってきたら?」
「戦えばいいさ。武器もあるし、魔法もあるんだから。俺はもうベルーラスとやり合わないと気が済まない。あれを見ていたら」
フスティーシアはそう言うと、救護隊が動き回っている場所に目を向ける。
「死ぬのは怖くないの?」
「死んだ奴が待っていてくれるからな。俺にはこの世もあの世も天国だ。コルテは怖いだろうな。まだあの世に用事なんかないから」
急に戦場に向かう事になり、コルテは少し迷う。
「いや、僕も行く。ここまで来て戦わないのは恥だ」
コルテがそう言うと、二人はソルの後を追って走り出した。
「すまんな。口だけの年寄りはこんな事しかできん」
サビドは三年前の決戦で足に深手を負っていた。それに自分の魔力が足りないばかりに、フロールへの救護が遅れた。もしもっと応急処置で魔力を回復させるマジリスをフロールへ長く使えれば、フロールはまだこの決戦に出られたかもしれない。
今は幾度も自分の盾となってきたバレンが、なんとかソルを守ってくれるよう祈るばかりのサビドだった。
ソルは荒野をひたすらに走っていく。春にバレンと出会った時とは違い、体力が格段についていた。しかしそれでも荒野は広い。だんだんとソルの息は上がってしまう。
「おい、ソル! 魔法を使え! リストーロを使うんだ!」
息があがり、立ち止まったソルにバレンが叫んだ。
「まだいい! まだ大丈夫!」
「いいから使え! ばてちまうぞ!」
「いいったら、いい! これくらいなら魔法はいらない!」
ソルは頑なに魔法を使おうとしなかった。体力の回復は魔法がなくても戻るが、魔力の回復は戦場ではほぼ無理だ。
立ち止まり、息を整えるとソルはまた走り出す。
バレンは中将の自分の指示をソルが拒否するとは思わなかった。そもそも半年前、まるで体力がなかったソルがしっかりと決戦の戦場に向かい、走っているのがバレンは頼もしかった。
青年達はいつも嘘のような成長を遂げる。
アクリラは決戦の戦場に入り、アクリラ隊が戦う戦闘範囲の淵に立っていた。
アクリア隊はそれまで戦っていた士官達と入れ替わり、中位クラスのベルーラスと戦っていた。それまで硬直していた戦いが嘘のように、アクリラ隊はベルーラスらをなぎ払っていく。入れ替わった士官達は、喜びと嫉妬の目でアクリラ隊の勇姿を見ていた。
そしてついにアクリラ隊は中位クラスのベルーラスらを壊滅させた。ソルやフスティーシア達はすっかり戦場に入っていた。ソルとバレンはアクリラの側に立った。
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