第48話 予知夢
ヴィーダにも特殊能力が備わっていた。
ヴィーダの特殊能力は、ソルと同じように夢を見る事だった。だがソルとは違い、アクリラが見る夢は予知夢だった。
「ソルさん! ソルさん!」
その日もヴィーダは予知夢を見ていた。ボロボロになった軍服を着たソルが、意識を失っていた。ヴィーダはそんなソルに必死に司教魔法を使っていた。
その夢をヴィーダは何度も見てきた。何度も見ても、その予知夢は変わらない。そしてヴィーダは自分が何の司教魔法をソルに使うのかがわからないのが気になる。体力を回復させるリストーロではないようだった。
決戦の朝、馬車の中でヴィーダは目覚めた。ひどく汗をかいていた。目覚めて、ヴィーダはさらに恐怖を感じ始める。ソルが決戦で意識を失うのは、もうヴィーダにはわかりきっていた。まもなくソルは意識を失う。そのソルを救うのは自分だとヴィーダは確信していた。
しかし自分がソルを助ける、そんな事が本当にできるのかとヴィーダは大きな不安を抱えていた。自分の魔力で間に合うのかという不安だ。
恐怖でヴィーダは激しく息をする。
「雨だよ、ヴィーダ。まずいな」
馬車の中にはロホとアスールがいて、ヴィーダを見守っていた。
ヴィーダは司教隊の白い軍服を着ていた。馬車は共和国の東にいた。すぐに結界の外に出られる、決戦が行われている荒野の近くであった。
「この日がきてしまった」
二カ月も前から、ヴィーダはその夢に悩まされていた。予知夢であり、ソルが意識を失う事は確実だった。ヴィーダは子供の頃から予知夢を見ていた。いつも予知夢はくだらないが嬉しい出来事ばかりだった。こんな悪夢の経験は初めてだった。
ヴィーダは悩み、法王に予知夢の内容を話した。
なぜソルが意識を失い、ヴィーダは自分が何の魔法を夢でソルに使っているのかがわからなかった。
法王は考えた末に、ヴィーダに参戦を命じた。しかし戦場に強いトラウマのあるヴィーダに、法王も決戦を見せたくはなかった。そして法王が出した結論は、ヴィーダを結界の中で待機させ、万が一の時は法王の特殊能力でヴィーダに伝えるというものだった。
「軍が結界の外に出た頃だな。決戦が始まる」
魔導士官のロホが言った。ロホとアスールはこの半年、ソルだけでなく、ヴィーダも守る役目を命じられていた。今はヴィーダを万が一の時まで、守り抜くよう命じられていた。
ヴィーダの予知夢を聞いて、ソルを子供の頃から護衛してきた二人は表情を曇らせた。内気で悲しい顔ばかりしていた子供だったソルが、今は決戦に参戦し、意識を失うというのは受け入れられない事だった。
決戦が始まると魔力がぶつかる轟音が響き始める。ヴィーダに恐怖がやってくる。ロホとアスールも険しい顔になっていく。
やがて遠くから、魔力と魔力がぶつかり合うのが伝わってきた。
雨に濡れながら、三人は決戦の方角を見守り続けた。
「私なんかにソルさんが救えるのかな」
ヴィーダは弱気に呟いた。
「大丈夫。この半年、ソルを見守ってきたヴィーダにはその力がある。ソルと暮らした事でヴィーダの魔力もまた強まったよ」
魔導士官のロホがヴィーダを励ます。魔力は人を思う事でも強くなる。
おびただしい数の魔力がぶつかり合うのが、遠くからでも三人に伝わってくる。魔力がぶつかる光が空を明るくしていた。激戦なのは見なくてもわかった。
やがて雨がやんだ。魔力がぶつかり合うのは何も変わらない。ベルーラスの獰猛な魔力にヴィーダは震えていた。足もすくんでいた。三年前の決戦で何もできなかった事が、ヴィーダの脳裏に蘇ってくる。
「怖がっちゃいけない。怖がっている場合じゃない」
ヴィーダはそう自分に言い聞かせるが、恐怖は何も変わらない。
決戦がどうなっているのか、そこからでは何もわからない。ヴィーダ達は待つしかなかった。ヴィーダは不安に押しつぶされそうだった。
西のほうから、決戦とは反対の方角から、強い魔力の集団がくるのをヴィーダは感じた。その魔力は共和国軍の将官クラスを軽く超えるものだった。ベルーラスではなく、士官の魔力だった。なぜ今頃やってくるのか、ヴィーダはわからなかった。
「魔力の泉の馬鹿どもがきたな」
ロホがヴィーダに説明した。アクリラの男になるために生きている男達だったが、魔力を高める修練もきちんと行っていたんだと説明する。
「あいつらまで参戦するなんて、いよいよ激戦だな」
共和国軍は最後の一滴まで戦力を動員していた。
やがて強い魔力の集団は、ヴィーダ達の頭上を越えて、決戦へ向かっていった。
(ソルさん…)
ヴィーダは決戦にいるソルをひたすら思っていた。
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