第35話 賢者の夢
法王はずっとソルの成長がなかなか進まないのは、ベルーラスへのトラウマだと思っていた。しかしそれだけでなく戦う事へのイメージができないためだと気づき、士官学校に入学させた。士官学校は人を思う強さを行動に移すからだった。だがそれでもソルには環境が足りないようだった。
大いなるものに守られている事をソルはもっと知る必要があった。人として大いなるものを守らなければいけない事も知る必要があった。それは少年から青年になるために、生きるのに不可欠なものを学ぶ必要があるという事だった。
「生きれば生きるほど愛すものが増える」
そんな一説が、共和国の伝記の一文にあった。
最後に法王は別な事をソルに問った。
「もしもだが魔力がアクリラやソルに追いつけば、イメージさえ大いなるものに近づけば、二人の他にも全体化の魔法のような魔法を使えるようになるか?」
ソルはどこまで言っていいのか迷ったが、法王に全てを打ち明ける事にした。
「優秀な魔法の使い手は特殊能力も備わると言いますよね。法王様は遠く離れた者と会話ができると言いますよね」
「あまり使わないがな。余程火急の事態しか使ってこなかった」
「姉のアクリラも隠してはいますが、何かを持っています。そして自分は夢を見るんです」
「夢? どんな夢だ」
「賢者が出てくる夢です。夢に賢者が出てきて色々な話を聞くんです。自分と賢者との繋がりなどを。そして賢者は伝記にはない、共和国の歴史も教えてくれます」
「共和国の歴史……」
「昔はもっと魔法は多くの人が使えて、全体化の魔法を使うのもあたりまえでした。昔の司教の中に入れば、自分はまだまだ凡人だそうです」
「ソルが凡人?」
「そうです。自分は奇跡なんかじゃなく、ただの司教なんです。しかしです。ある年の決戦で多くの魔導士官と司教士官の魔力が、ベルーラスの魔法によって封印されてしまったそうです。そして高度な魔法の記憶すら消される特殊な魔法も別のベルーラスによってかけられたそうです。それは賢者が産まれる前の出来事ですが、賢者には時を旅する能力があって知ったそうです。そのベルーラスこそ覇王です」
「覇王か……。そして封印」
ベルーラスの王である覇王を倒さなければ共和国に真の平和はこないが、獰猛で凶暴、なにより強靭なベルーラスだった。法王はかつて決戦で覇王と対峙したが、魔力を使い果たすほど戦っても、覇王に深手を負わす事しかできなかった。
「共和国の伝記は途中から何かがおかしくなっていると思っていたが……」
歴史家でもある法王はソルの話で色々なことの辻褄が合うと理解できた。
「いつからその夢を見るようになった?」
「士官学校への入学を魔法学校で言い渡された日からです。その夢が初めは信じられず、また法王様に話すべき事かもわかりませんでした」
「しばらく次の決戦のために忙しく、ソルをここに呼ばなかったからな」
法王は凡人でありながら奇跡であるソルへの扱いが雑であった自分を恥じた。
ともかくソルはヴィーダの母、アルマと会う事を法王に命じられた。
そして謁見の間を去ろうとしたソルに、法王はある事を告げた。
「ベルーラスの動きを探っている偵察部隊から、次の決戦には覇王が出てきそうだという報告があった。今回はアクリラに戦ってもらうしかないが、まだ司教と剣士を誰にするかは決まっていない」
覇王が出てくれば、最低でも深手を負わして逃亡させないと、共和国まで業火がきてしまう。覇王を倒せば真の平和が訪れるが、覇王が出てきた決戦の戦死者の数は甚大になる。ソルはそれをわかっているから息を吞む。
そして今のアクリラの強大な魔力を回復できる司教士官の存在をソルは知らない。
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