第22話 最高指導者合議

 共和国の最高指導者である三人が集まった合議が行われていた。大戦から三年が経ち、ここのところ共和国を偵察にくるベルーラスの報告が増えていた。法王と魔導士のトップである大魔導師、剣士のトップである大元帥が丸いテーブルを囲んでいた。

「去年の戦いはごく小規模だったはずだが、犠牲はひどいものだった」

 大元帥が述べた。三人のどの顔も険しい顔つきだった。

「年々、ベルーラスの奴らも魔力をあげているからな」

 大魔導師は苛ついていた。

「我々剣士軍は質より量とは言え、去年の殉職者は多すぎる」

 大元帥は憤怒していた。共和国の屈強な人材が集まっているとは言え、魔力を持たない生身の人間がベルーラスと対峙するのは本来なら無謀だった。

「剣士を見捨てる戦い方を変えろと言うか?」

 大魔導師が言った。

「そうは言わん。だが今のやり方では、我々剣士軍の戦力はジリ貧になってしまう」

 それには法王も大魔導師も頭を悩ませていた。

「やはり戦い方を変えねばな。ベルーラスの動向から、今年また決戦が起こるのは間違いない。それも最後で最大の決戦になる様子がある」

 法王が口を開いた。法王には最後の決戦が近い確信があった。

 合議の本題はその年の決戦に関する作戦だった。偵察にくるベルーラスの数から、決戦にくるベルーラスの戦力を推測すると、次の決戦が最後になる可能性はやはり高かった。もしそうなれば共和国軍は平和をつかむか、滅亡するかのどちらかだった。

決戦に最も凶暴なベルーラス、覇王が出てくれば、最後の決戦になる。

 合議は進むが、いい作戦など簡単には見つからない。

「もう今日は作戦の話はいいだろ。それよりもだ……」

 大魔導師が作戦の話を打ち切った。

「今度の決戦にはアクリラを参戦させる。あの魔力を結界を守るだけに使うわけにもいかない」

「アクリラの代わりはどうする。今の結界はアクリラの力がなくてはならないだろ。アクリラの代わりが必要だ」

 法王が問い質した。

「今年十歳の希望ある少女が見つかった。その子を今年魔導士官学校に入学させた。アクリラの代わりにその子に結界を守らせる」

「ついに我々は十歳の子供の力を借りないといけなくなったか」

 大元帥は嘆いたが、大魔導師は顔色を変えなかった。

「前線に出すわけではない。魔力の泉で結界へ魔力を送ったところで、死ぬわけではない」

 魔力の泉は常にある程度の戦力が駐屯し、共和国でもかなり安全なところの一つだった。

「いったい誰の子だ。まさかアクリラやソルのように普通の人間の子供だが、賢者の末裔だと言うんじゃないないだろうな。それだけの特別待遇をするということは」

「フロールの一人娘のペルフーメという子だ。十歳だが他の魔導士官候補生とは引けを取らない」

「フロールと言えば、確かトリクルの司教はサビドで、剣士はバレンだったな」

 法王が言ったトリクルとは魔導士官、司教士官、剣士官が一人ずつ集まって戦う集団の単位の事だった。三名を一組として数え、戦場では常に共に行動し、凶暴な一匹のベルーラスに対して一組のトリクルが対峙して戦うのが常だった。

 トリクルを編成して戦う場面が、戦場ではよくある。逆に魔導士官や司教士官だけが集まって戦う作戦もある。

 フロール、サビド、バレンのトリクルは共和国軍の中核として活躍してきた。歴戦を救ってきたトリクルだった。それが三年前の大戦でフロールが魔力を使い果たしたために、解散してしまった。

 フロールは病人となり、高齢なサビドは後進を育てるために士官学校の教官を志願し、バレンは剣士隊の作戦参謀になる道を選んでいた。

 ただバレンは次の大戦にはアクリラとソルの力が必要になると、ソルへの訓練を買って出ていた。ソルに戦場の基本を叩き込もうというのがその魂胆だった。

「まぁ、結界を守らせるためなら、良いだろう」

 法王がまた言った。

「ソルはどうなんだ? 次の大戦に帯同させるのか?」

 大元帥が法王に確かめた。

「ソルは戦場に出てもらう。そしてアクリラと共に戦ってもらう。そのために士官学校に入学させた」

「まだ十五歳だぞ。士官学校に十五歳ぐらいで入学した者はいくらでもいるが、初陣を果たした者はいない。初陣は二十歳からが原則だ。ついにその原則を破るのか?」

 大魔導師が問い質す。

「致し方無い。アクリラとトリクルを組める者はソル以外にいない」

 法王は強く言い切った。将校クラスの司教は全てトリクルの仲間がいる。急にアクリラと組ませるのは何かと支障が出てしまう。

「ではアクリラとソルとトリクルを組む剣士は、バレンでどうだ?」

 大元帥が法王に同意を求めた。

「いいのか? 彼はいずれ貴重な参謀になるはずの中将だぞ。今はソルの子守のような事させているが、元々は将来を期待された将官ではないか?」

 異論のない法王だったが、念を押して聞いてみた。

「いいのさ。参謀を目指しているというが、バレンは血気盛んで、まだまだ前線で活躍してもらわんと困る。後ろの方で見守るような役目はまだ早いのよ。フロールが回復するまで、ベルーラスと戦わないなんて事はさせないつもりだったからな。それに今度の決戦は本当に最後かもしれんからな」

「もしかすると覇王がくるのかもしれないのだぞ。生身の体で戦う剣士の命は保障できん。まさかソルがまた復活魔法を使うのを期待しているんじゃないだろうな。あれはまさに偶然の出来事だぞ」

 大魔導師がバレンを差し出した大元帥に、それでいいのか確かめた。

「復活魔法なんて期待もしてないさ。誰しも命は惜しいが、バレンは特に死ぬ覚悟をして生きている。バレンの肝の据わったところは剣士隊でも随一だからな」

「それなら良いが、バレンには伝えてあるのか? 二人と一緒に覇王と戦うと」

 法王が質問した。

「もちろんだ。平然と受け入れやがった」

 大元帥は少し笑って答えた。

 そして最後は雑談のようにソルの模擬訓練でのトリクルの話になった。模擬訓練とは魔導士の王が君臨するアルフィーデ皇国の魔導士が生み出しだ、ただの野生の熊を人間の魔法の力で弱いベルーラスと変化させた、人工のベルーラスと戦うものだった。

「ソルと組む魔導士はペルフーメだ。ペルフーメはまだ子供だ。一番頼りになる司教士官候補生を探していたところだ」

 大魔導師がそう言う。

「剣士はフスティーシアという今年三十の男だ。ソルと同じ村の出身だ」

 大元帥がその者を明かした。

「ソルと関係があるのか?」

 ソルと同郷と聞いて法王は問いかけた。

「ソルの父親とフスティーシアは面識がある。ソルが復活魔法を使った惨劇の時に、フスティーシアは家族を失くして、最近まで天涯孤独で暮らしていた」

「なんだかややこしくなりそうだ。どうしてそんな者をソルに充てる」

 釈然としない法王は大元帥に聞く。

「お互いのためさ。人を守る事にピンとこないソルと、守る者を見失ったフスティーシアはいい刺激になるだろう」

「どうなる事だろうな」

 刺激にしては強すぎると思った法王だが、それ以上は言わなかった。

 合議はそこで終った。

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