第6話 悩めるアクリラ

 ソルとアクリラは一週間も眠り続けた。アクリラは夜が明ける頃、ソルはその日の黄昏の頃だった。二人ともすっきりとした目覚めで、テレノとシエロを安心させた。

 それから家族の生活はがらりと変わった。共和国はソルの魔力をきちんと引き出そうと、それにふさわしい環境に住むように家族にを命じる。

 住み慣れた畑作地帯近くの街から、ジーナクイス共和国中枢、政府近くの司教や魔導士が暮らす地区へと移り住んだ。そこがソルとアクリラをあらゆる危険から守るのに最も適した場所であった。

 テレノは政府から政府内での力仕事を斡旋された。シエロはとにかく二人の育児に専念してほしいと伝えられた。ソルとアクリラは魔法園と呼ばれる、魔力を秘めたと認められる十歳までの子供が魔法教育を受ける機関に入った。シエロはそこで二人を見守り続けた。

 魔力を秘めた子供が集まる魔法園といっても、子供の遊び場の延長でしかなかった。ソルが入ったクラスは歌を歌ったり、踊りを踊ったり、絵本の読み聞かせを聞く程度だった。アクリラが入ったクラスも数の計算の仕方や読み書きの仕方を教わるといったものでしかなかった。

 それでも復活の魔法を使ったソルとアクリラの存在は異質だった。魔法園に通う子供の親は司教士官や魔導士官ばかりで、魔法を使うどころか魔力さえないテレノとシエロの子供というだけで異質だった。そして子供達の話題の中で魔法の話があがっても、まるで興味を示さないどころか、どこか逃げ出したい顔になるのがソルだった。

 アクリラはともかくソルは魔力に完全に目覚めることを恐れていた。他の子供達が魔力に目覚める日を楽しみにしているのとは対照的だった。

 それでもソルは魔法園での生活に徐々に慣れていった。

「ソル君、遊ぼう」

「ソル君、遊ぼうよ」

 真面目で礼儀正しいソルは人を惹きつける魅力を子供ながらに持っていた。魔法園の子供達は無邪気にソルを仲間として認めていくようになった。

 アクリラはアクリラで好奇心の強い元々の性格から魔法園の中にすぐに溶け込んだ。ソルと遊ぶだけでは退屈になっていたアクリラは、同年代の子供達と遊べることに新鮮さを感じていた。

 そんなアクリラにも悩みはあった。

「ねぇ、アクリラ。アクリラはいつ魔法を使えるようになりそう?」

 アクリラにそんな質問をしてきた子がいた。悪意はなかった。

「私、魔法なんてきっと使えないよ」

 アクリラは本気でそう思っていた。

「そんなのおかしいよ。魔力がなきゃ、魔法園に入れないんだよ」

「ないものはないよ。私はただのソルのお目付け役だよ。きっと今のお母さんのご先祖様に魔法が使える人がいたんだよ。私には関係ない」

 アクリラにはテレノの賢者の刻印の事は知らされてなかった。

 アクリラの年頃になると魔法は使えなくても、魔力を高められる子供は何人かいた。次々と魔力に高める同級生らに、アクリラは憧れながらも自分には関係ないと思っていた。自分はきっとテレノやシエロのように労働をして生きる平凡な道しかないと思っていた。

「それでいいの? アクリラは」

「いいも悪いもそれしかないよ。私はソルとは違う」

 明るく無邪気に魔法園で過ごしながらもアクリラは周りに嫉妬していた。元来勇ましい性格だったアクリラは、魔法園の同級生らのように、魔法を使ってベルーラスと戦えない未来を思っていら立っていた。ベルーラスの怖さを誰よりも知っていたが、自分の運命の変えたベルーラスを誰よりも恨んでいた。

「できるなら戦いたい。私だって」

「じゃあ剣士になるの?」

「それも無理だよ。私走るのとかも遅いし」

 その頃のアクリラは自分が何者かをまだ知らなかった。

 アクリラもまた魔力に目覚める運命にあった。そしてそれは意外にも早かった。

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