第7話 覚醒

 惨劇から一年後の夏だった。魔法園ではお泊り会というものがあり、魔法園で一晩を過ごす行事が行われていた。子供達だけでなく、大人達も大勢集まり、誰もが夜明けまで語り合っていい日だった。ソルが六歳で、アクリラが九歳の時の話だった。

 アクリラは一人の男の子と手をつないでその行事に参加していた。とっくにキスは済ませていた相手だった。ソルの事などほったらかしである。魔力はないくせに男の扱いがやけにうまいアクリラは同級生の女子からは陰でこそこそ言われ始めていた。

 アクリラはそんな事はおかまいなしに、その男の子とデートするように歩いたり、喋ったりしていた。その男の子もなかなか見込みのある魔導士の卵だった。

 行事では夕方からキャンプファイヤーが始まろうとしていた。大人の魔導士官が炎の魔法でいくつあったキャンプファイヤーに火をつけていた。

 魔導士官がまだ火をつけていないキャンプファイヤーがあった。その前に何にかの子供達が集まり、魔導士官の真似をして火をつけようとしていた。アクリラと一緒にいた男の子も自分もやってみたいと参加したが、炎の魔法を使える子供はさすがにまだいなかった。

「アクリラもやってみたら?」

 気乗りしないアクリラを男の子が促した。周りにはそれなりの人が集まっている。普通に過ごしていても注目されるアクリラは気がひける。

「やってみなよ、アクリラ。勇気を出して」

 全く気乗りしないアクリラに男の子は発破をかける。女心がわからないガキだと別れる決心をしたアクリラは、笑われるのを承知でキャンプファイヤーの前に立った。

 アクリラは魔法園でいつも聞かされてきた魔法の唱え方をやってみた。精神を落ち着かせ、炎をイメージし、自分の手先に気を集中させた。

「フィアンマ!」

 アクリラはやや大きな声でそう魔法を唱えた。するとなんと大きな炎がキャンプファイヤーを包み、一気に燃え盛ってしまった。

 アクリラも周囲の誰もかれもが唖然とした。キャンプファイヤーの煙に驚いて、何人もの大人が集まってきた。本当なら魔法が使えた事を歓迎すべきだが、アクリラが放った炎の魔法は子供が使うにしてはあまりに大きすぎた。

 そこに将官クラスの魔導士官が二人いた。

「大魔導師様に報告だな」

「そうだな。私達が話し合って解決できる問題ではない」

 二人はそんな事をひそひそと話し合っていた。

 お泊り会が終った数日後、将官クラスの魔導士がアクリラを迎えにきた。魔力の泉で、アクリラの魔力を開放するという話だった。魔力の泉には老魔師と呼ばれる、隠居した魔導士が住んでいた。アクリラの能力を開放させるには一番そこがいいと共和国の政府は判断した。アクリラの連れ添いにはテレノが選ばれた。

 ソルは泣きじゃくって嫌がったが、どうすることもできなかった。

 そうして家族は運命により、半分に別れさせられた。アクリラは「大丈夫だよ、ソル。すぐに帰って来れるよ」と強気に言ったが、その日が訪れる事は遠い日となった。

 ソルは母のシエロと二人の生活になってしまった。父のテレノ、姉のアクリラの顔を見られない生活はソルには堪えた。魔法園での生活は一年が経っても完全には慣れていなかった。ソルは自分が魔力を持っていたことをだんだんと憎く思うようになっていた。

 魔力さえなければ、平穏な暮らしのまま過ごせたと強く思うようになってしまっていた。

 だがそんなソルの心とは裏腹に、ソルはついに魔法を使いだす日がやってくる。

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