第2話 選ばれし者

 ソルが司教士官学校に入学したのは十五歳の時だ。高等魔法学校の卒業年齢である十八歳からの入学が習わしの司教士官学校に、ソルは魔法学校を卒業しただけで選ばれた。選ばれたというよりも、無理矢理入学させられたというのが正しい。

 ソルの入学はジーナクイス共和国軍、司教隊の上官達の協議の結果だった。

 ちなみにジーナクイス共和国では魔力を持った子供はまず魔法園という教育機関に入り、十歳からは魔法学校、十五歳からは高等魔法学校という教育コースが用意されている。そして十八歳からは飛びぬけて優秀な者だけが、司教士官学校で訓練を受ける事ができる。司教士官学校は学びの場ではなく、ベルーラスとの決戦のための士官養成機関である。

 司教士官学校は志願では入れない。ジーナクイス共和国軍の司教隊がいくつかある高等魔法学校を調査し、その能力を認めた者だけに入学試験へスカウトする。あくまで試験へのスカウトであって、もちろん試験を拒否する事もできる。やる気のない者はそもそも入学にふさわしくないとされる。

 魔法学校の生徒だったソルにはスカウトでなく、入学試験の日程がいきなり告げられ、必ず試験を受けるようにと言い渡された。ソルだけはやる気の有無など問われなかった。問われないというより、ソルの入学はほぼ強制だった。そしてそれはありえない話だった。

 ソルは幼い頃のある事件から、ジーナクイス共和国の特別な保護で暮らしていた。ソルの住まいは常時、魔導士官と剣士官の見張りがいた。魔法学校への登下校も、気軽な買い物も常に警護がつけられた。そしてソルは幼い頃より法王から直接、司教魔法に関する知識や知恵を授かっていた。ソルにとって魔法学校は思い出作り、情緒教育の場でしかなかった。

 司教士官学校の入学試験をソルは八十人中、十五番という成績でパスした。詳しい結果は魔力のスコアと魔法学のスコアはトップだったが、士官になるには必要な運動能力は最下位だった。入学のために鍛えていた十八歳の志願者に、十五歳のソルが敵うわけがなかった。そもそもソルは魔法学校でも体力があるほうでもなかった。

 司教士官学校でソルの入学を驚く者は誰もいなかった。ソルと同じ入学したばかりの司教士官候補生もそうであった。ジーナクイス共和国軍司教隊からの命で司教士官学校の教師達は五年も前からソルが入学するのを想定していたし、ソルと同期となる十八歳の者達も入学試験の前からソルと机を並べるだろうと想定していた。

 ソルは入学のための魔力と魔法の資質に何の問題はなかった。ただ十五歳のソルは心も体もまだまだ不安定な歳だった。入学試験でソルが試されたのは、その点だけだった。

 そんなソルの資質が発見されたのは、ソルが五歳の時の惨劇がきっかけだった。

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