🎬テイク2
僕は家に向かう途中いろいろなことを考えた。
この時間帯に中学生が走っていたら変な目で見られないかな。
本当にやつの言う事は正しいのか? もし火事なんてなかったら……。
なんで僕は今必死に走っているんだ。僕は何を心配して何に賭けたんだ。もし火事が本当なら妹たちがまだ助かる余地がある。でも嘘だったら? そしたら僕はただのさぼり魔じゃないか。
授業をほったらかしにして信憑性のない情報に耳を傾け、僕は何をしているんだ。
でもあの時、何か体の奥底で不安な思いが芽生えたのだ。
――もし本当なら。
見覚えのあるカーブミラーを前方に見つける。その場所を右に曲がってまっすぐ行くと、僕の家がある。
家に着く。全体が白いクリーム色をした家だが、さっき見た光景とは違って、大きい火などはなかった。いつもの普通の家だ。
家の目の前まで来ると、庭で友達と縄跳びで遊んでいる妹の佳奈の姿が見えた。
佳奈はすぐさま僕に気付き、不安そうな顔をして近づいてきた。
「お兄ちゃん、学校はどうしたの?」
「あ、その……そうそう、忘れ物をしたんだ。絶対に必要な物だから、隙を見つけて来たんだ。でも時間がないからすぐ戻るよ」
そう言うと佳奈は「珍しいね」と言い、友達の方に戻るとまた縄跳びをし始めた。
家の中に入ると、外から佳奈たちの黄色い声が聞こえてきた。念のため一階の隅々まで確認したが、火事の元と呼べそうなものはどこにもなかった。
この家にストーブはもともとないし(ストーブが燃えたりするニュースを見たことがある)、それにあいつが言ったことが元からでたらめだったんだ。
やられた。そう思って床を強く蹴る。鈍い音は僕しかいないリビングに重く響く。その重さが自分に跳ね返ってくるように僕の腹の底から苛立ちを含んだ渦のようなものがどよめく。
学校から出てすでに十五分が経った。壁掛けの電子時計の秒針は今もカチ、カチ、とリズムを刻んでいる。
その音を聞くと余計腹の底の苛立ちが大きくなる。
ハァ……。大きく息を吸った後、すべてを吐き出すように大きく息を吐いた。今更学校に戻ってもまたやつの顔を見るのは嫌だと思ったのでこのまま家で寝てやろうと思ったけど、一言やつに言いたい。そう思って、仕方なくもう一度玄関を押した。
「随分長かったなトイレ。もう終わるぞー」
音楽の隅田先生はマイペースな性格をしているから、人に怒ったりする印象はない。だからよく、クラスの明るいやつらからいじられたりしている。
無事学校に戻った時には時針は十九を指していた。あと一分もしないうちにチャイムが鳴るだろう。
特にすることもない僕は椅子にも座らずに、入り口に一番近い場所にあるピアノの鍵盤に触れる。
「そういえば合唱コンクール近かったな」
独り言をぼそっと言ったところでチャイムが鳴って、みんないっせいに音楽室をあとにする。隅田先生の授業にあいさつなど存在しないのだ。「どんどん次の授業行け―」と隅田先生は大きい声で、音楽室に残っているみんなを押し出す。
「達也君、家、燃えてた?」
やつだ。やつは僕の肩をとんとんと叩き「おかえり」と言って、呑気な顔をして僕を抜かす。
「おい待てよ」
言えずにはいられなかった。このでたらめ野郎。放っておけばまたいつ襲われるかわからない。今ここで言わないと、後で困るのは僕だ。
「このでたらめ野郎。家は燃えてなかったしそんな顔しやがって。お前頭イっているよ。ネジないだろ? 探す旅にでも出たらどうだ?」
次々に悪口が湧いてくる。その悪口は今は悪口には聞こえなかった。
「よかったね、家が燃えてなくて。私の見えた未来だと燃えてたのに、奇跡だよ。運がいいね、達也君は」
「は?」
こいつ、本当に頭がおかしいのか? 目を細めて奴を睨みつける。
「私は未来が見えるんだよ。どう? 驚いた?? 私って実はすごいんだよ」
やつは上目遣いで僕を見つめる。また笑っている。その顔を見ると悪口を言わないと気が済まなくなる。
「なんなんだよお前! 気持ち悪いの自覚したらどうだよ。ずっとその顔しやがって、わけわかんないことしかしない。そのおかげで僕は頭がおかしくなりそうだ!
金輪際僕に話しかけてこないでくれ」
僕は最後にやつの目を睨みつけその場を去ろうと歩き出した。その時、
「あの時、行くか行かないか決めたのは君自身の事だろう? 私は何もしていない。ただ、起こりうる可能性を教えただけだ。状況提供しただけだ。最後にどうするか決めるのは君自身だろう。そんな顔はしないでくれ」
「じゃああの風景は何だったんだ。僕の家が燃えている風景。あれはなんなんだ。それにお前は僕にはやくと言った。あの風景を見た後にそんなことをされたら行くに決まっている。お前の意志でな」
「あの風景って何? 私は情報を言っただけだなにもしていない。それにはやくだなんて言っていないしそもそも言葉なんて発していない。私は君をコントロールしていない」
「そんなことを言ったらなんでもありじゃないか。お前はなんなんだ、何をしたいんだ。それになんだその設定は。未来が見えるとか、そんなわけないだろ! 頼むからもう話しかけないでくれ。お前といると疲れる」
「どうしてそんなことを言うんだい? 私はいつも通り接しているだけだ。それなのにそこまで言う理由はどこにある?」
これでも平然と話すこいつに嫌気が最高潮に達し、僕のいらだちは爆発する。
「お前なぁ!」「どんどん帰れー」
言いだそうとした時だった、ぼくと奴の間に突然隅田先生が割り込んできた。周りには僕とやつと隅田先生以外誰もいなかった。隅田先生から冷たい視線が送られているのに気づく。
ハァ。ため息をついて僕は音楽室をあとにした。
後ろから聞こえる足音を聞くのが嫌で、僕は歩く速さ速める。
今日は最悪な日だ。谷口というやつに話しかけられたせいでこれからの生活が鬱になりそうだ。やつはまた僕に話しかけてくる。そう思った。そんな気がした。
最初の奴の印象は”
僕は次の授業が始まる前に、頭が痛いという理由で学校を早退した。
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