トランプ無双
(あれ? ココミ、何を作ってるの?)
「これですか? トランプというものです。もうすぐ完成するので遊んでみますか?」
(え、それ遊ぶものなの? やるやる!)
一人で黙々と作業を行っていた心美。
その様子を見て何をしているのか尋ねたユキは、心美からの返答に目を輝かせた。
心美が行っていたのはトランプの作成。
彼女が知る者と比べたらかなりチープな出来上がりとなってしまっているが、最低限数字とマークが分かればそれはトランプとして成立する。
自分たちで遊ぶ分には十分な出来だろう。
「お待たせしました。完成したので遊んでみましょう」
(ねーねー、この紙切れみたいなのでどうやって遊ぶの?)
「そうですね。ユキはカードを持てないので……カードを伏せた状態でも遊べる神経衰弱でもしてみましょうか」
(シンケ―スイジャク? 何それ?)
基本的にトランプは手に持って遊ぶものが多いが、神経衰弱ならば伏せたカードを捲る手順を心美が代わりにやってあげれば事足りる。
一瞬、ユキならば魔法でカードを浮かせて持つこともできるのではないかと考えた心美だったが、比較的楽に行える神経衰弱を提案してルールを説明する。
(二枚捲って同じ数字が書かれていたら自分のモノにできる。違ったら伏せて同じ場所に戻す。最後に持ってるカードの枚数が多い方が勝ちってことね……!)
「一度捲られたトランプの数字、それがどこにあったのかをどこまで記憶できるかが鍵ですね」
(うー、面白そうだけど難しそうだね)
「ひとまずやってみましょう」
何事も挑戦。
やってみなければどんなものかは分からない。
一通りルールを説明し終えた心美は、トランプを軽くシャッフルしてテーブルの上に並べた。
「ユキからいいですよ」
(じゃあー……これとこれ!)
初めは何を捲ろうとそれほど関係ない。
揃う確率は限りなく低いため、ユキは適当に二枚を選ぶ。
心美がそれを捲ると、二と五だった。
「いいですか? よく覚えておくんですよ?」
(うん、もう戻していいよ)
「はい、では私の番ですね」
心美もトランプを裏返す。
その数字は三と七で、ユキの捲った数字とは掠らなかった。
「まあ、初めはこんなものでしょうね。ですがここからが大変ですよ」
(次は私の番だね! まずは……これ!)
今度は既出のカードが捲れる可能性があるため一枚ずつ選ぶ。
そして、ユキが二巡目一枚目に捲ったのは既出の数字である五だった。
(あっ、さっき私が捲ったやつだ! えっと……どこだっけ? あれー、これかなぁ)
既出の札が捲れたということは獲得のチャンス。
なのだが、一巡前に自分が捲った札の位置に自信がないユキは迷った末、正しいカードを選択した。
(あ、よかったー。もう全然覚えてないや)
「ふふ、少し早いんじゃないですか?」
早くも忘れかけているユキを笑い、心美も未開拓の地帯を捲る。
「二……一組もらいましたよ」
ユキが既に出していた二をオープンした心美は迷うことなくペアとなるユキが一巡目で捲った二を当て持っていく。
(えー、すごい! 私も負けてられないな!)
「さあ、どんどん行きましょう」
こうして交互に捲り、時には外し、時には当て、一進一退のシーソーゲームで展開は進んだ。
そして――――決着は着いた。
「……私の負けですね」
(やったー! 私の勝ちー!)
「ふふ、おめでとうございます!」
(ありがとー。でもココミ、途中から全然当たらなくなったよね? もしかして……手を抜いてた?)
「まさか。単純に覚えきれてなかっただけですよ。中盤、後半に差し掛かるにつれて覚えなければいけないことが増えますからね。敢えて覚えるものを絞って他は捨てるという手もありましたが……全部を覚えようとして欲張ったのが敗因でした」
(ふーん。じゃあ、もう一回やろ! 私も慣れてきたし、ココミもしっかり全力でやってよ)
「……いいでしょう。リベンジマッチです」
こうして二回戦が始まった。
だが、その勝敗はものの数分であっけなくついた。
「私の勝ちですね」
比べるまでも、数えるまでもない。
どう見ても心美の取り札の束の方が大きい。
(なんでー?)
「ちゃんと本気を出しました。こういうゲーム、得意なんですよ」
(あ、あー! ズルだー!)
心美の本気。
心を読む瞳を利用したズル。
迷った時は記憶をたどれば、確実に当たりを選べる。
こうして既出札が捲れた時やユキが取り損ねた組をすべてかすめ取り大人げなくも圧勝した心美だった。
(もう一回! 今度はそれやっちゃだめだからね!)
「分かりましたよ。普通にやりましょう」
記憶力が鍵のゲームで、いつでも記憶を覗き見ることができるのは無敵を誇るだろう。
そんな力を行使されてはゲームが成り立たない。
きちんとその力を制限した上で、再度仕切り治す。
途中でアオバやスカーも交えて、みんなで楽しく遊ぶことになり、トランプは好評だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます