チームワーク?

「はあ、楽でいいわねー」


(たまには……いいかもだけど、あの子達暴れすぎなんじゃない?)


 現在、とある討伐依頼を冒険者ギルドにて受注し、その依頼を行っている最中。

 だが、心美は討伐とは関係ないといった様子で、ただただ散歩を楽しんでいる少女のそれだ。


 それもそのはず。

 実際に討伐を行うのは心美ではなく、ユキとアオバだ。

 心美はその様子を遠くから眺め、スカーを撫でるだけ。

 時間が過ぎれば勝手に依頼は達成されていくのだ。


「気にしないでおきましょう。初めは協力して遊んでたみたいだけど、今は競争になってるみたいですし、確かに回収も少々手間ですが……私がいるのでさほど問題はないでしょう」


 と言っても心美とスカーに役割がまったくないわけではない。

 心美の役割は観測と移動の足。


 千里眼を利用してユキやアオバが討伐した素体を発見し次第、テレポートで回収に向かう。

 スカーは影を利用した収納係という、心美のチームは完全サポート係。

 派手に暴れるのはユキとアオバの討伐チーム任せているということだ。


 ユキとアオバは初めは協力して討伐を行っていた。

 アオバの拘束から流れるようにユキがとどめを刺す。

 彼女達お得意の必勝パターンでやってきた。


 そのため心美はユキとアオバの動向を追えば、自然と回収に向かえたわけだが、今は彼女達が討伐数を競って単独行動をし始めたため、回収の手間が増えている。

 それでも見通す瞳と即座に移動できる力がある心美にとっては問題ない。


 戦闘という行為を代わりにやってもらっている以上、それくらいの役割を果たすつもりである心美は、目を閉じて二人の動向を追った。


「ユキもアオバも調子いいですね。そもそも二人とも飛べるので、フットワークが軽いです。特にユキは行動範囲が広くなりましたし、いちいち私が運んであげる必要が無くなったのでとても楽です」


(それせいで今はあちこち行ったり来たりしないといけないんだけど……)


「それくらいいいじゃないですか。二人とも目についた魔物をひたすら倒しまわっているようですし、私達は落ちてる食べ物を回収するだけです」


(まあ、そうだけど)


「彼女達が縦横無尽に駆けまわって倒しまわってくれたおかげでとっくに依頼は達成してますし、あとはボーナスタイムですよ」


 そう言って心美はユキとアオバの戦闘が行われた地点に点々とテレポートしていき、スカーはそこに転がる食料予定のモノを影に詰め込んでいく。

 それをしばらく繰り返したところで、もう討伐は打ち止めということを伝えに直接ユキとアオバを迎えに行った。


 ♡


(ねー、私途中で数えるの忘れちゃって何体倒したか分からなくなっちゃった。アオちゃんは?)


「ボクは三十七体ですね。結構頑張りましたよー!」


(えっ、そんなに? 多くない? ココミ、アオちゃん嘘ついてない?)


 心美に止められて討伐を止め、帰路につく前に、競争の結果発表。

 だが、ユキははしゃぎすぎたあまり数を数えるのを途中から放棄してしまっていた。

 その一方でアオバの記録は三十七。


 その記録を聞いて驚いたユキは、心美に嘘がないか尋ねる。

 その要求に応えてポリグラフを発動させて再度同じ問いをかけるが反応は見られなかった。


「嘘はないみたいですね」


(えー、私は何体だろう? 負けちゃってるよね?)


「ちょっと待ってくださいね」


 記録を覚えていないながらも敗北を確信して気を落とすユキに心美は瞳を向けた。

 見通すのは直近の記憶。

 例え思い出せなくても、脳に記憶として刻まれている。


 それをゆっくりと流し見て、数をカウントしていけばチェックメイトだ。


「ユキは五十六体倒してるみたいですね。なんだ、圧勝じゃないですか。我を忘れるとはこのことですね」


(えっ、私そんなに倒してた? よかったアオちゃんに勝ててー)


「ええ? そんなにですか? うわあ、勝ったと思ったのにー」


「スカーの回収時の記憶も見たので間違いないでしょう。アオバが三十七、ユキが五十六、そして最初の方で二人で力を合わせて倒したのが四匹。すべて正しいです」


 判定は下された。

 討伐競争は無我夢中ではしゃぎ回ったユキが勝利を収めるという結果で幕を閉じたのだった。


「いやー、さすがですね。でも次は負けませんよ」


(いつでも受けて立つよー)


 ユキの反応から勝ちを確信していたアオバは悔しそうにユキを称え、再戦を誓う。

 重なり合う視線。バチバチと迸る火花。

 そんなユキとアオバの様子を見て、今後の討伐依頼も楽になりそうなどと気の抜けたことを考える心美だった。

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