ポリグラフゲーム

 その後、共犯者ということが判明していたアオバも心美に叱られ、しょんぼりとしていた。

 そんな彼女だったが、口を尖らせながら何かを思いついたように心美に尋ねる。


「その瞳ってどこまで嘘を読めるんですか? 嘘を言ったことが分かるんですか? それとも内容まで分かるんですか?」


「……そうね。嘘を言われたら黒い渦が見えるということしか分かってないので、もう少し調べてみましょうか」


「どうやって?」


「ただ黙々と調べてもつまらないのでここは私とあなたたちでゲームをしましょう。あなたたちにいくつか話をしてもらいそのどこに嘘があったのか私が当てるゲームです」


「おお、面白そう。あなたたちってことはボク達で嘘をついていいんだね?」


「別に相談してもらっても構わないわよ。その間心は読まないと約束するわ」


 アオバの素朴な疑問。

 それはどこまで嘘を見分けられるのか。


 嘘をついたという事実が分かるのか。

 それともその言葉のどの部分が嘘だったのかまで判別できるのか。

 見分けられない嘘はあるのか。


 まだまだ未確認なことが多い。

 そんな中投げかけられた問いに心美は少し考えて、一つの提案をする。


 ただただ検証に勤しむのでは面白味がない。

 だからこそのゲーム形式。


 心美は提示される言葉の嘘を見抜き、アオバたちは心美の瞳を欺くという単純明快なゲームだ。


 そのゲームの内容を聞いてアオバは良い反応を示してテンションが上がっている。

 何よりこれまで絶対性を誇ってきた心美の瞳を欺き騙すことができるチャンス。

 密かに燃えるアオバはどんな嘘をつこうか考えている。


「本当に心は読まないんですね?」


「ええ、ユキやスカーは心を読まないといけないけど、記憶に干渉することはないわ。あくまでも私はこの瞳だけで戦うと誓いましょう」


「オッケー、じゃあ作戦会議するからちょっと待っててね。行こう、ユキちゃん、スカーちゃん」


 そう言ってアオバはユキとスカーを引き連れて別室へと作戦会議に向かった。

 心美はその間約束通りに心を読む瞳を閉じ、万一にでも読み取ってしまう可能性を消して、紅茶を口の中で転がして待った。


 ♡


 数分後、アオバたちが戻ってきた。

 その表情は自信満々といったようで、十分な策を用意できたのが伺える。


「自信はあるみたいね。でもそう簡単に欺かれてあげるつもりはないわよ」


「そう来なくっちゃ面白くないですよ。じゃあ、これからボク達が話すことの中に一つ嘘があるから見逃さないようにしてくださいね」


「ええ、かかってきなさい」


 それが開戦の合図。

 心美はポリグラフの紅眼を輝かせて、投げかけられる言葉に意識を向けた。


「そういえばなんですけど、この前ちょっとだけ青薔薇を咲かせる範囲を広げてしまいました。以前に決められた範囲でと言われていたのにすみません」


「……まあ、ちょっとくらいならいいわよ」


(ねえねえ、この前アオちゃんが飛んでるの見て羨ましくて飛べる魔法を覚えてみようと思って練習したらちょっとだけ飛べるようになったんだ。すごいでしょ!)


「……へぇ、それはすごいわね。今度見せてちょうだい」


(えー、実はこれまでにもつまみ食いを何度かしていて、今も影の中に盗った食べ物をストックしてます……。ごめんなさい)


「……そう、仕方ないわね。影の中がどうなってるのか分からないから何も言えないけれど、古いものを食べてお腹を壊さないようにね」


「ボク達が用意したのはこれで終わりだよー」


「……その言葉が嘘……ということでもなさそうですね」


 心美は怪訝そうな顔で目を細める。

 開いたポリグラフが黒い渦を見せることはなかった。

 つまり、嘘がどこにあるのか分からなかったということだ。


 困惑したような表情を見せる心美に、アオバたちは作戦がはまったことが嬉しいのか顔を見合わせて笑っている。

 その様子を見て瞳を破られた悔しさを感じる。


 だが、話の総数が少なかったことが幸いし、心美はこれまでの発言の内容を己の心を読まずとも思い出すことができる。

 三つ、たった三つの言葉の中に何か違和感のある部分はなかったのかを探す。


 しかし、その言葉にポリグラフは反応していない。

 何か瞳をすり抜けて言葉を通す術でも見つけたのだろうかと疑問に思うが、その可能性は限りなく低い。


 何しろ自分ですらよく分かっていない瞳の効果だ。

 それを使用者ではない者が一から十まで理解できるわけがない。


 そうして三つの言葉に嘘はない。

 ポリグラフの反応は正しいと決定づけて、さらにひとつ前の言葉に遡った時、心美はハッと顔を上げた。


というのがね」


「……驚いた。何で分かったの?」


「あなたたちの言葉に偽りがなかったことと、私の瞳を信じたからよ」


「ちぇっ、負けちゃったなー」


 心美はトリックを暴いた。

 嘘は既に仕込まれていたのだ。


 嘘があるというのが嘘。

 だからアオバたちは本当のことしか話していないし、当然ポリグラフも反応は示さない。


「やられたわ。まさか瞳を開く前に勝負を仕掛けてきているなんて……。もう少し話の数を盛られていたら気付かなかったわ」


「それでもバレちゃうとは思わなかったよ。でも、楽しかったよ」


 勝負には負けたが一瞬でも心美を惑わすことができたことに満足しているのか、アオバたちも嬉しそうだった。

 だが、不意打ちを受け瞳の検証すらできなかったのと、内緒にされていた秘密を知ってしまった心美は少々複雑な気持ちを抱えているのだった。

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