「雨ですか……」


(雨だねー)


 心美は窓を伝う雫と、雨粒がぶつかる音を鳴らす地面や葉をを眺め、気だるげに呟いた。

 空模様はあいにくの雨。

 それほど強い雨ではないが、外出する気分が吹き飛んでしまうくらいには降り注いでいる。


(ココミは雨嫌いなの?)


「まあ、好きではないですね。ジメッとした空気がどうも鬱陶しくて……。あなたはどうなんですか?」


(私? 私もあんまり好きじゃないかなー? 濡れると毛がペタっと張り付いちゃうから嫌かも)


「ああ、なるほど。濡れるのが好きな動物はあまりいませんか」


(あ、でもお風呂は好きだよー)


「あれだけお風呂に乱入されたら知ってるわ」


 雨を眺めて始まった雑談。

 ズバリ、雨が好きか。

 心美はその表情から見てわかる通り、雨に苦手意識を持っている。


 ユキも同様に雨は好きでないようだ。

 それでも同じ濡れるでもお風呂は別口なのは不思議な事だが、既に何度も心美のお風呂に乱入してきているため、その申告も今更だろう。


「スカーも多分苦手よね」


(うん。なんなら私達の中で一番嫌いなんじゃないかな?)


 猫は濡れるのを嫌う。

 ユキと違ってお風呂に突撃してくる様子もないことから、心美は容易に想像ができ、クスリと笑みを浮かべた。


(アオちゃんはー?)


「多分大好きなんじゃないかしら?」


 そう言って心美は遠い目をしながら窓の外を指差した。

 そこには雨天を気にすることなく、元気で楽しそうに舞うアオバの姿があった。


(アオちゃん、飛んでるね)


「ええ、飛びながら青薔薇の花弁を撒き散らしてるわね」


 そこに降り注ぐのは雨粒のみならず。

 はしゃぐ彼女が散らす青も色鮮やかに飾られている。


「さすが自然を司る精霊と言うべきかしらね。植物にとって雨は自然の恵み。喜んで受け入れるものであって拒み阻むものではないわ」


(そういうものなんだ)


 自然の精霊にとっては雨は自然の恵み。

 普通の人間や動物とは違う価値観を持っているのだろう。


(何か楽しそうだし私も混ざってこようかな?)


「濡れるのは嫌いなのでは?」


(ふふん、今の私は魔法を使えるんだよ。雨で濡れないようにするくらいなら簡単だからね)


「……魔法ってそういうものだったかしら?」


(ココミもアオちゃんの力で大きめの花を咲かせれば濡れないようにできるんじゃないの?)


「そうね……不可能ではないわね」


 心美はユキの提案に乗って試しに大きめの薔薇を咲かせてみる。

 一般的なサイズを超え、さらに大きくした花弁。

 それをふよふよと頭上に浮かせて呟いた。


「傘の代わりくらいは務まるかしら?」


(なんでもいいから行こうよ!)


「はいはい」


 心美が窓を開けるとユキはそこから飛び出して行った。

 ご丁寧に結界系統の魔法を自身の身体に纏わせて雨を弾いているのはさすがと言うべきだろう。

 心美は思いもしない魔法の使い方に感心しながら、自分もテレポートで窓の外へ身体を送り出した。


 薔薇の花弁が雨を受け止めて不規則な音色を奏でる。

 その音と、ユキとアオバが楽しそうに遊ぶ様子を眺めて、雨も悪くないかもしれないと少し、ほんの少しだけ考えを改めた心美だった。

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