その瞳に何を映す?⑬切れ端
心美は座ったまま目を閉じて両目に千里眼の瞳を反映させる。
切り替わった視界をゆっくりと動かして、未開の地を探索する。
(パッと見ても分かるくらい散らかっているけど、何でこんなにたくさん遊び道具があるのかしらね)
床に散らばるおもちゃはもちろんだが、部屋に備え付けられている棚やカゴのようなものにも山ほど溢れている。
(積み木、パズル、よく分からないカード、あれは……乗り物かしら? それに人形、ブロック玩具、本当に色とりどりね)
床や棚を軽く眺めてみても、目に入るのはおもちゃばかり。
特にパズルやブロック系のおもちゃが多いように見える。
(元は別荘なのにこんなに子供のおもちゃがあるということは、頻繁に訪れていたのでしょうか? でも、一人で遊ぶ前提のおもちゃが多いということは……もしかしたらこうして誰かと遊びたかったのかもしれないわね)
心美は前情報として、この廃洋館が元は別荘として扱われていたことを知っている。
そんな洋館だが、書斎もかなり充実しているし、部屋もそれなりに家具が揃えられていて、頻繁に訪ねられていた形跡が伺える。
稀に訪れる程度の別荘ならば、これほど物が置かれていることはないだろうと心美は推測した。
その上で、この部屋の内情とヒロの心情を合わせて考えれば、ヒロがどういう気持ちで過ごしていたのか、何となく予想はつく。
(アオバと遊んでいる様子は嘘偽りなく楽しそうだった。でも……あの時の心情、本当に寂しそうでした)
心美はアオバを視界に収めて思い返す。
ヒロの姿は捉えられなくても、アオバの楽しそうな様子からきっとヒロも同じような表情をしているのだろう。
心美は見えない彼の姿をそう想像した。
だが、何かが足りない。
ヒロがそう感じていたのも本当だ。
その理由についても、心美はおおよその見当がついていた。
(こればっかりは彼の記憶が頼りね……。そろそろ覚悟を決めて読んでみましょうか……っ!?)
心美がそのような事を考えていると、急に視界に収めていた物が動き出した。
突然の事に心美は思わず口元を押さえて、目を開いてしまった。
視野を取り戻した肉眼が捉えたのは、何かが浮く様子とアオバがそのすぐ傍に立つ姿だった。
(ああ、ヒロくんでしたか。びっくりしました……おや、何かが落ちましたね。なんでしょう?)
「ヒロくん、何か落ちましたよ」
謎の空白にヒロの姿を幻視し、驚きで高なった鼓動を落ち着かせる。
そうしているとヒロが手に取ったおもちゃから何か紙切れのような物がヒラリと落下していくのが見えた。
アオバもそのことに気付き、ヒロに声をかける。
そうして舞い落ちる紙切れが棚と棚の間に吸い込まれるように消える直前、心美は開いたままだった千里眼の瞳でその正体を確認した。
「スカー、ちょっといいですか?あの茶色い棚と黒い棚の隙間に落ちた紙切れ……取ってきて貰えますか」
(別にいいけど……ちょっと待っててね)
心美は即座に指示を出した。
足元に小さく語りかけると、影がにゅっと伸びてスカーの目が心美の顔を覗いた。
心美は紙切れが入り込んだ棚の特徴を示して、回収を要請する。
そうしているとアオバもしゃがんでその隙間を覗き込んだ。
「んー? どこにいったのでしょう? 見当たりませんね」
(……私の方が早かったからね)
アオバは落下物の行方を追って、暗闇に目を凝らすももう既にそこに探し物は存在しない。
心美の元に戻った影から、その探し物は浮き出ていた。
「ありがとう、スカー」
(いいけど……それなんだったの、ココ?)
「これは……書斎に飾ってあった家族写真の切れ端です」
心美が手に取った切れ端。
そこには、書斎で見つけた家族写真の隙間をピッタリ埋めることができる、ヒロの姿が映し出されていた。
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