その瞳に何を映す?⑫未調査

 ヒロとアオバが楽しそうに遊んでいるのを眺めながら、手持ち無沙汰になった心美はふと考えた。

 これまで食堂や書斎、いくつもの空き部屋、浴室など様々な場所を調べてきた。

 足を踏み入れていない場所はもはや片手で数えられる。


 だが、足を踏み入れた上でまだ調査していない部屋がある。

 それがこの部屋だ。


「そういえばこの部屋はまだだったわね」


(ん? 調べるの?)


「大っぴらに見て回ることはできなさそうですが、見ることだけならできそうですね。ただ……」


 現在心美は既に心を読む瞳と霊視の瞳の二つを開いている。

 千里眼を使うとなれば、代わりにどちらかを閉じなければいけない。


 心を読む瞳を閉じるとアオバ以外との意思疎通の手段を失う。

 霊視の瞳を閉じるとヒロの言動を何一つ追えなくなる。


 この二つを天秤にかけて心美は、霊視を閉じることを選択した。


「ユキ、アオバに伝言を頼めるかしら?」


(え? ここにいるしココミが言えばいいじゃん?)


「アオバにだけさりげなく伝えてほしいの。それには私ではなくあなたが適任よ」


 心美はボソボソと小声で話す。

 ユキに頼んだ伝言は霊視を閉じるということ。そしてそれに伴ってヒロの相手を頼むという内容だ。


 心美が自分の口から伝えずにユキを経由する理由。

 それはヒロに瞳を明かさないためだ。


 ヒロと遊んでいるアオバに対して聞こえるように指示を出してしまえば、それは当然ヒロにも届く。

 かと言って遊んでいる最中のアオバをたったこれしきのことを伝えるためだけにヒロから引き剥がすのも本意ではない。


 それ故に、心美はユキを頼った。

 ユキの言葉ならば、ヒロに理解されることなくアオバにだけ届く。

 アオバが動物とも会話できる精霊という種族だからこそ成り立つ伝達手段。


 傍から見ればただペットが小さく鳴いただけ。

 アオバはそれを耳にするだけでいい。


 その事に納得したユキは心美の要望通り小さく鳴き声を上げた。

 その声に一瞬顔を上げた二人だったが、ヒロはすぐに視線を戻した。

 アオバもこれといった反応は見せずにすぐにヒロと遊び出したが、心を読める心美にはオーダーが通ったことが伝わっていた。


「ありがとう。それじゃ、始めましょう」


 見えているのも怖い。

 だけど見えなくなるのはもっと怖い。

 だからこそ霊視の瞳を閉じるにあたって、アオバにヒロを任せる必要があった。


 これから霊視を閉じるにあたって、ヒロの動向を知り、行動をコントロールする者がいる必要があった。

 これまで通り心美達を気にすることなく、遊戯に勤しんでくれていれば構わない。

 そういった意味ではアオバのすべきことは変わらない。


 一緒に遊ぶことでヒロの興味と注意を引き付けてもらっている。

 その隙をついて心美は調べ物をする。


 パズルのピースを探す上ではほとんど役に立たなかった。

 そのためこれはリベンジマッチだ。

 今度こそ何かを見通してみせるという意思。

 こうして再び、千里を見通す瞳が開かれた。

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