その瞳に何を映す?⑪表と裏

「おかえりなさい、遅かったですね」


「すみません。探し出すのに時間がかかってしまいました。これ、よろしくお願いします」


「わっ、パズルのピース……! ちなみにですがどこにあったのですか?」


「食堂にある観葉植物の鉢、書斎の本の中、浴室の排水溝ですね」


「……すみません、全然遅くないです。むしろめちゃくちゃ早いくらいじゃないですか……!」


「そう言ってもらえると助かるわね」


 戻ってきた心美を出迎えたアオバは戻りが遅かったと暗に待っていたと口にする。

 心美もその自覚はあったため素直に謝り、目的の回収してきたパズルのピースをアオバに手渡す。


 アオバの手に乗せられた三つのピース。

 それを見て、せいぜい三つ程度のピースを見つけるのにこれだけの時間を要したのだから、どんな場所にあったのか。

 それが気になったアオバは何気ない気持ちで尋ねてみた。


 しかし、心美の口から告げられた発見場所は、アオバの予想をはるかに超えるモノだった。

 アオバ自身も床に落とした、どこかのテーブルに置き忘れた、といったようないたって普通らしい場所を思い描いていた。

 だが、現実は違った。

 それは実際に見て回った心美の、思い出すだけでも目が遠くなる哀をはらんだ表情が雄弁に語っていた。


 三つのピースを発見するにあたってそれほど役に立てなかったという自覚がある心美だが、その苦しい道のりを歩いてきたことには変わりない。

 たかが、三つ。されど三つ。

 その意味不明な隠し場所を巡って目と足を動かした苦行は、待っていただけのアオバには分からないが、それでも心美達がどれだけ頑張って、隠し場所の割には短時間で見つけてきてくれたのかということを理解したアオバは謝罪と訂正をする。


「さ、早く完成させましょう。あの子も待ちくたびれたでしょう?」


「は、そうでしたっ」


 そう言ってアオバはピースを持ってヒロの元へかけていく。

 心美はゆっくりとした足取りでその後を追った。


 残り三つ。

 どこに何をはめればいいかはすぐわかる。

 ヒロとアオバは残りのピースを埋めて、パズルを完成させた。


「やったー、完成しましたよ。よかったですね、ヒロくん!」


「うん。探してきてくれてありがとね」


「はい……どういたしまして」


 心美はパズルを完成させてヒロからお礼を受け取る。

 しかし、心美の心を読む瞳はその言葉とは相反する心も察知した。


(喜び、嬉しいという気持ちは嘘じゃない。でも……寂しさのようなものも覚えている? どういうことかしらね?)


 心美が残りのピースを見つけてきたことで、パズルは無事完成した。

 そのことを喜ばしく思っているヒロは、同時に物足りなさのようなものも感じていた。

 表面上では子供らしい無邪気な笑顔で喜んでいるように見えるものの、心の内という本来なら何物にも侵されることない自分だけの領域にて思うことですら筒抜けにできる心美には通用しない。


 だが、それは喜んでいる、紛れもなく喜んでいる。

 その上で相反する感情も同時に存在しているのだ。


 心美はヒロのそんな複雑な心理状況に目を細めるも、むやみに問い立てることはせずに飲み込んだ。

 今はまだ、様子見で十分。

 嬉しい感情を露にして、次なる遊びを始めようとする彼と、目的も忘れて一緒になって楽しんでいるアオバを静かに見守る心美だった。

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