その瞳に何を映す?④無意識の嫌

 無事に館内への侵入を果たした心美達。

 現在の位置は開かずの扉の向こう側の玄関ホール。

 心美は目を閉じたまま千里眼の力であちこち見ている一方で、ユキとアオバは近くにあるものに興味を示している。


「ココミ、どうするんですか?」


「行きましょう。行くべき場所はもう決まっているわ」


「やっぱり何か見えたの? とスカーちゃんからです」


「……そうよ。だから早く確かめに行きましょう」


 心美の瞳が捉えた明らかな異常。

 場所ももう割れている。

 心美は落ち着きのないユキを拾い上げて、歩き出した。


 ♡


 コツコツと響く足音。

 その足取りに迷いはなく、一定の感覚でリズムを刻む。


「ちなみにどちらへ向かっているんですか?」


「……子供部屋……のようなものでしょうか? 子供用のおもちゃと思われるものがたくさん散らばっている部屋ですよ」


「他にも部屋などがあるみたいですが、そっちは調べないのですか?」


「他は後回しでいいでしょう。まずは……あそこです」


 調査という名の付く作業である以上、本来ならくまなく見て回って調べ上げるのがあるべき姿なのだろう。

 だが、心美は他の場所は千里眼で軽く見通すだけで、まず赴く場所はその子供部屋と決めている。


 アオバに心美が見えているものは分からない。

 だからこそ何を見て行動を決定づけているのか。

 子供部屋にて待ち構えているモノは何なのか。


 自分とは違う世界を見ている心美の瞳に何が映っているのか。

 考えても仕方のないことに思考し、緊張を加速させた。


 その一方で心美も平静を振舞っているが、実は気持ちが揺れ動いており、何度も深呼吸をしている。

 行く場所は決めている。

 それなのにテレポートを使ってすぐさまその場に行こうとしない訳。

 そんなこと考えなくても分かっていた。


(……ああ、私は怖いのでしょうね)


 心美はこの感情を恐怖だと認識していた。

 心美はこのメンバーの中で唯一、

 他の何者にもまだ見えていないものを、すでにその瞳で捉えている。


 見えていないからこそ気が楽でいられる。

 見えているからこそ余計な思考が生まれる。


 無意識の内に取った行動。

 徒歩での移動はその恐怖の元へと到達するのを先送りにするもの。


 自分での答え合わせは既に済んでいる。

 あとは模範解答との答え合わせをするだけ。


「……ああ、本当に嫌になります」


「ん? 何か言いました?」


「……いいえ、何も。そんなことより到着しましたよ」


 心美は己の心に従って小さく弱音を吐いた。

 アオバが心美のつぶやきに反応して尋ねるが心美は誤魔化して目的の場所に着いたことを示す。


 覚悟を決めるようにもう一度深呼吸をして、心美はその扉の取っ手に手をかける。

 そして――――その反対の手で、ノックをするのだった。

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