たっせい

 優雅にティータイムを楽しんだり、ペットをモフモフしたりして時間を潰した心美。

 その時間調整も十分だと判断して、依頼達成を報告するために再び冒険者ギルドへと訪れた。


 心美はギルドに入ってきょろきょろと周りを確認し、空いているカウンターにヴィオラの姿を確認してそこへ並んだ。


「おや、ココミちゃんじゃーん。おかえり~」


「ヴィオラさん、ただいまです」


「その様子だとバッチりみたいだね~。すごいよー」


 ヴィオラは心美がまだ何も出していないのに大げさに褒める。

 色々と思う所はあるのだが、やはり褒めてもらえるのは嬉しい。

 そう感じながら心美は依頼のものをヴィオラに出す。


「ふむふむ、さすがですな。初めての人だとたまに薬草と間違えてただの雑草を持ってくるなんてミスをする子もいるんだけど……ココミちゃんはそんなベタなミスしなかったね~。えらいよ~」


「ありがとうございます。確かに興味ない人から見れば、どれも同じように見えてしまいますもんね」


「そーなんだよね~。初心者の子が一生懸命取ってきたのが実は雑草でしたーなんてオチを告げないといけないのはこっちも心苦しいからね。とにかくココミちゃんは大丈夫でよかったよ~」


 冒険者ギルドは数多の冒険者を受け入れる。

 当然のことながら初めは皆初心者から積み上げていくものだ。

 その中でも薬草採取の依頼は、その手ごろさと低難度故に多くの初心者冒険者が受けることになる。


 そんななかでありがちなのはヴィオラが珍しく渋い顔で語った通り、薬草と雑草の間違いである。

 初心者の冒険者も初めての依頼で意気込んで取り組むが、その成果が実は全くありませんでしたということを正直に告げねばならないギルド側の人間も心が痛むのだ。


 短い間とはいえ優秀な薬師の傍にいた心美がそんなミスをするはずもなく、無事に依頼を完了させたことで、ヴィオラも嬉しそうだ。


「さてさて、待たせたね~。これが報酬になりまーす。しかと受け取りたまえ~」


「ありがとうございます」


 心美はヴィオラが用意した二つの依頼を達成したことによる報酬を受け取る。

 簡単な依頼ということもあり、それほど金額は大きくないが、心美が自分で手に入れた初めてのお金だ。

 そのため大切そうにしまい込んだ。


「今日はどうするのかな~? 結構早いペースで依頼をこなしてもらったから時間はまだありそうだけど……もう一件いっとく~?」


「いえ、今日はこれで留めておこうと思います。何事も無理は禁物ですからね」


「いい心がけだね~。今日はよく頑張りましたということで、ゆっくり休んでくれたまえ~」


「……ありがとうございます。そうさせてもらいますね」


 時間的にも余裕があり。現在達成した依頼にかかった時間から逆算するともう一件程度なら受けられると判断したヴィオラは緩い感じで心美に尋ねるが、がつがつにやりこむつもりはない心美は遠慮する旨を告げる。

 それに対してヴィオラは再度心美を褒め、ゆっくり休むように笑いかけるが、すでに十分な休息を取ってからギルドに赴いた心美は、その眩しい笑顔に申し訳なさを覚えるのだった。

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