見回り(見るだけ)

 初の依頼を終えて帰宅した心美は、座ったまま瞳の球体をテーブルの上に転がしていた。

 その瞳は開いており、心美自身は両目を閉じている。

 そのことから千里眼で何かを見ている事が分かる。


 そんな時膝に重みを感じた。

 うっすら片目を開いて下を覗くと、心美のお腹を支えに心美の顔を覗き込む白い狐の姿があった。

 それを確認してもう一度目を閉じ、額の瞳をこじ開ける。


「どうしたんですか?」


(いや、なにを見てるのかなって気になって。わざわざ二つ目を開いてまで見続けてるってことは大事なことだった?)


「いえ、いい機会なので気にしなくても大丈夫ですよ」


 本来なら複数同時開眼を避ける心美が、それを行ったことで、千里眼を閉じられないような重要なものを見ているのではないかという疑問で、少しばかり申し訳なさげな心の声をユキは漏らす。

 心美は千里眼を中断して、心を読めばいいところを敢えて同時に開いた。

 徐々に複数開眼にも慣れていかなければいけないと思い、その慣れのための敢えてなのだ。

 そのため気に病む必要はないと告げる。


(そう、よかった! で、なにしてるの?)


「森の見回りですよ。名目上とはいえ一応受けた仕事ですので」


(ああー、そういえばそんなのあったね)


「まあ、ルチカちゃんのような迷子や迷い込んで出られなくなった冒険者の方などはそうそういないとは思いますが、念のために確認です。とはいえここを中心として動かないなら全域を見通せるわけではないので見逃しはあるかもしれませんが、やらないよりはマシでしょう」


 広大な土地をもらい受けると同時に、引き受けることになった管理という役割。

 そのうちの一つである敷地内の見回りを、心美は座って動くことなく行っているのだ。


 以前より広がっている観測範囲をフルに有効活用して、森の内部を見渡し、不審なものがないか、迷子がいないかなどを調査している心美は見える範囲の観測を終えたところで大きく息を吐き、目を開けた。


「とりあえず何もなさそうですね。そんな頻繁に何かあっては困るので、平和が一番です」


(でもいいの? ココミの見回り、見回ってないよ?)


「目が届いていれば私自身が動く必要はないでしょう? 私の瞳がちゃんと見て回ったので問題ありません」


(えー、ココミが動きたくないだけなんじゃないの?)


「…………まあ、細かいことは気にしない方がいいですよ」


 それらしい理由を並べて言いくるめようとするも図星を突かれて固まった心美は、自分に言い聞かせるように声を絞り出した。

 これはサボりではなく、作業の簡略化。

 常に百点ではなく、八十点でもいいじゃないか。

 心美は自分をそう言いくるめて、膝にちょこんと座る白の毛玉を優しく撫でまくるのだった。

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