想定内の想定外

「さて、依頼を受けたのはいいですが……知ってたと言いますか、何といいますか……。やはりすぐ終わってしまいましたね」


(そうだねー。まあ、当然だよね)


 心美は自宅のリビングにて、目の前に広げられる依頼達成を示す薬草と木の実を眺めて呟いた。

 やはりというべきか、案の定というべきか。

 その依頼は心美にとって存外簡単なもので、彼女の感覚で言えば、庭に生えた植物を採取するくらい簡単なものだった。


 現時点での心美は戦闘方面は全くと言っていいほど発達していないが、その探索能力は目を見張るものがある。

 その場から動かなくても探せる目と、現物の場所へすぐさま移動できる手段がある。

 物を全く知らない状態から探したとしてもそれほど時間を要しないと思われるが、今回はさらに探さなければいけないものが心美にとって既知のモノだったという点も大きい。


 ただ見渡して、移動して、もぎ取って。

 大して労力も必要としない単純作業。

 それがこの二つの依頼の概要だった。


「いくら簡単な依頼と言えど、あまりにも早い達成だと目立ったり疑われたりするかもしれないので、少し休憩を挟んでから持っていきましょう」


(えっ? 目立った方がいいんじゃないの?)


「確かにそうですが……これはちょっと……。目立つは目立つでも悪目立ちするんじゃないかしら?」


 依頼というのは依頼掲示板から受ける依頼を選んで、ギルドの受付嬢に受注の手続きをしてもらってようやく仕事となる。

 そこから対応したものを探したり、倒したりして、ギルドに戻ってきて確認が済み次第依頼達成となるのだが、心美がそれにかけたのはほんの数分。


 ギルドを出て人目のないところに隠れてテレポートを発動させ森に帰ってくる。

 そのまま千里眼で依頼達成に必要なものを探し、回収する。

 帰宅する。

 以上が心美の踏んだ手順だ。


 仮にそのままの流れでギルドに戻って、回収した薬草などを提出すれば即座に依頼達成となるのだろうが、それではあまりにも早すぎるという自覚がある。

 だからこそこうして自宅でのんびりしながら時間を潰しているのだ。


「私が必要だと感じれば人前でもこの瞳を開く。けど隠し通せるうちは隠しておきたいのよ。みんながみんな、レヴィン家の人達みたいに認めてくれるわけじゃないわ」


(そっか。ココミの好きにしたらいいよ。でも今日中にギルドに持っていくんだよね)


「ええ。こんな簡単な依頼に何時間もかける冒険者だと思われるの癪ですからね。悪目立ちしない程度にある程度の実力は示しておきたいわ。もう少し休憩したら行きましょうか」


 今回は偶然にも即座に終わらせることができる依頼を引くことができたが、次もそうとは限らない。

 アピールはできるうちにしておいた方がいい。


 目立ちすぎを避け、あくまでも優秀程度に評価が留まるように調整。

 心美はもうしばらくの間、時間つぶしの休息へと勤しむのだった。



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