回復と報酬とココミの願い
心美の足の怪我もよくなって数日。
ルミナスの作る薬は完成し、複数回に分けてシルフィが服用し、経過を観察していたようだ。
心美はこれまでと変わらず生活し、少しだけ散歩などの軽い運動もするようになったくらいでこれといった大きな出来事はなかった。
しかし、これまでにはないイベントが発生した。
「懐かしいですね。こうしてあなたが呼びに来てくれて、こうして拉致されるのは……」
「拉致とは人聞きの悪い。せめて案内と言ってください。それに私だって理由もなくココミさんを連れ回すわけではないのですよ?」
「分かっています。オリバーさんのところに連れていかれるということは……シルフィさんの容態がよくなって会わせてくれるのでしょうか?」
「心を読んだのですか? サプライズのし甲斐がないですね」
「それくらい心を読まなくとも分かります」
心美はこうして並んで歩くことに懐かしさを覚えながら、ニアをからかう。
いつかのようにオリバーに呼ばれた時もこのように案内をしてもらっていた。
今回呼ばれた件については心を読まずとも想像はつく。
「楽しみです。やっと直にお話しすることができます」
「御当主様の依頼でお会い自体はされているんでしたね。何でも心を読んでいらっしゃったとか」
「はい、心を読んで私を経由してルチカちゃんに伝えて会話を成り立たせる役目をしてましたね」
しかし、体調が回復したとなればその一手間は必要なくなる。
心美はシルフィと直接話すことができることを楽しみしながら、ニアとオリバーの元へ向かった。
♡
「さて、色々と話したいことはあるけれど……まずは言わせてもらおう。ありがとう。君の活躍のおかげで妻は回復した。また世話になってしまったね」
「どういたしまして。ですが私は私のできることをしたまでです。それに薬を完成させたのはルミナスさんなので、お礼なら彼女に」
「もちろん彼女にもちゃんとするさ。だけどここまで早期の回復が見込めたのはやはり君のおかげだろう。材料がなければ薬はできなかった」
オリバーは開口一番、心美にお礼を述べた。
元々心美が協力することになったのはオリバーの依頼がきっかけだ。
だが、それはあくまでルミナスのサポートとしての働きを期待してだ。
心美はその期待をはるかに上回る活躍をしてくれた。
その功績を称え、多大な感謝が贈られるのは何ら不思議ではない。
「そのシルフィさんは……なるほど、そちらですか」
「やはり君に隠し事はできないね。シルフィ」
「私が控えていることに気付いてらしたのですね」
「ええ、読み慣れた心がそこにあったもので」
心美が視線向けた扉の向こう側から、シルフィが姿を現す。
心美を驚かそうと待機していたようだが、心を拾ってしまう彼女には通用しなかった。
「こうしてちゃんと話すのは初めてですね。改めて、本当にありがとう。おかげでこんなに良くなったわ」
「顔色もよくなりましたね。微力ですがお力になれたようで何よりです」
「あなたにはまた恩ができてしまったわね。私達にできる事ならなんでも協力するから遠慮なく言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「それでは、またゆっくりお話ししましょう」
ひょっこり顔を出したシルフィは、心美にお礼を告げると急ぐように去って行った。
この場でもう少しゆっくり話せる機会を得られるのかと思っていた心美はオリバーを見やるが、そんな彼も何とも言えないような表情で首を横に振った。
「すまないね。このあとルチカとお散歩に行くそうだよ。まったく……いくら良くなったとはいえ病み上がりだからあまりはしゃいでほしくないが、あんな顔されたら止められないね」
彼女にとって心美お礼をすることも大切なことだったが、それ以上に家族とのふれあいも大切だったのだろう。
これまで娘に我慢させてきた分を取り戻したい。その思いが行動に出てしまっている。
そんな妻に強くは言えないオリバーは、感謝の気持ちが本物だということを念押しして申し訳なさそうにしている。
「君への感謝つながりということでこのまま続きを話させてもらうよ。シルフィも言っていたけど君にはまた大きな恩ができた。僕が依頼したルミナスのサポートも含めて報酬を与えたいと思っている。できる事なら何でもしよう。遠慮なく言ってほしい」
「急にそんなこと言われましても……以前にお金も受け取っていますし……」
「僕には君の功績に対して正当な対価を与える義務がある。その程度ではまだまだ足りてないよ」
心美は材料を二つ集めた段階で報酬の前金と探索の準備金も兼ねてお金をもらっていた。
それだけで十分と口にしようとしたが、それを見越したオリバーは先に釘を刺す。
受けた恩に報いることができないようでは、レヴィン家としての面目が立たない。
こればっかりは譲る気はないようだ。
心美としては願いがないわけではない。
しかし、一般的かつささやかな願いとはかけ離れているため、告げるのは憚られていた。
だが、言うだけならタダ。
ダメ元でも構わないので話してみようと思い、意を決して口に出した。
「実は――――――――なのですが、――――――――もらうというのは可能でしょうか?」
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