戦利品整理

 心美はポルテモ草を根こそぎ強奪して、千里眼テレポートで離脱、逃げ帰るようにレヴィン家へと戻ってきた。

 玄関を経由することなく自室へと転移した心美は大きく息を吐きだした。


「あまり良い手段とは言えないでしょうが、手に入れられて良かったです」


(泥棒みたいなことしちゃってよかったの?)


「泥棒みたい、ではなく紛れもない泥棒でしょうね。ですがあの方達はポルテモ草を闇ルートに売りさばいて儲けようとしていた。違法な薬物に加工されてしまう以上、市場には卸されないでしょう」


 ルミナスが足繁く薬草屋に通っても見つけられなかったのは、彼らがこうして過剰に寡占して流通を阻んでいたからだろう。

 そんな者達からでも奪い取ることには心美もほんの少し罪悪感を覚えたが、強奪という決断を覆すことはなかった。


「それが正当な理由になるかと言われたら怪しいところですが、私は後悔していません。ユキも何も言わず手伝ってくれてありがとうございます」


(ぜんぜんいいよ。楽しかったし)


 今回の強奪にあたってユキには大変な役割を担ってもらった。

 心美が安全に荷台で詰め込み作業をできたのも、ユキの活躍あってこそ。


 だが、一歩間違えれば二人に被害が及ぶ可能性もあった。

 心美は心を読んだり、千里眼を使えたりと常人より優れた技能があることには間違いないが、純粋な戦闘能力においては全く期待できない。

 転生して容姿が多少変化したとはいえ、華奢な身体やそれほど高くない身体能力はしっかりと引き継いでいる。


 それでなくとも体格のいい男性には簡単に組み伏せられただろうし、安全にスクロールを使用できるだけの猶予を与えてくれたユキにはとても感謝してる。


(そういえばココミが木箱を開けたとき何か黒いのが飛び出していくのが見えたんだけど何だったの……?)


「あなたにも見えていたのね。一瞬で飛び出して姿を消してしまったから私にも分からないの」


(ふーん、それは残念。少しだけ興味あったんだけどな)


「……分からない、けど……ここにいるわよ」


 そう言って心美は足元に視線を落とした。

 その視線を追ってユキも下を向いたが、そこには何もなく何の変哲もない床があるだけだ。


(何もいないじゃん。もしかして私をからかっているの?)


「いいえ、確かにいます。私には聞こえるんですよ」


 現在ユキと会話を行うために開いている額の瞳も同じく心美の足元へと向いており何者かの心を読み取っている。

 心を侵すその瞳は姿が見えなくてもそこに心さえあればすべてを見通す。

 足元――――正確には心美の足元から伸びる影。


「さあ、怖がらなくていいわ。あなたの心の声はちゃんと私に届いている。だから安心して出ていらっしゃい」


(……分かった)


 心美が優しく呼びかけると、影から黒い猫が顔を出して、挨拶するようにニャッとかわいらしく鳴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る