ノルマ達成率75パーセント
キリエへの相談で新たな目の力に目覚め、さらには転移魔法テレポートの応用方法も見つけた。
これで移動における弊害はなくなった。
次の日に心美が一人でもう一度森に行くと聞いたルミナスは自分がついていなくても平気だろうか。一人でどうやって行くのだろうかと保護者のような心配をしていたが、心美が編み出したテレポートの応用を聞いて驚いた。
しかし、それ以上に疑似的な長距離テレポーターの誕生を祝福した。
必要なこととはいえ馬車を使っての遠出は中々に堪えていたようで、心美も頼られることが増えるかもしれない。
「ユキ、千里眼を開かなければいけないから、こっちを閉じるわよ。私がスクロールを使う時は私の身体に触れていてね」
(分かってるよ、早く早く!)
今回は久しぶりにユキを連れての二人旅。
留守番続きだったユキも久しぶりに同行できるとのことでとても嬉しそうだ。
心美がテレポートのスクロールを使用する際にユキに守ってほしいこと。
それは必ず心美に接触していること。
転移魔法は手を繋ぐ、肩に触れるなどして魔法行使者に触れている者も一緒に転移することができる。
だが、心美がスクロールを使用する時というのは、千里眼を開いている時で、その間心を読む瞳は開いていないため、ユキの心を見ることができない。
そんな時に離れてしまって、置いてけぼりにすることがないようにするための注意だったが、ユキは聞いているのかいないのか分からないような返事をする。
心を読む瞳を閉じても伝わる楽しみという感情に心美も苦笑いをせざるを得ない。
現在は頭の上に陣取っているため問題はないが、転移の際は今一度気を付けなければと心に刻み、心美はスクロールに魔力を込めた。
♡
千里眼の応用、疑似長距離テレポートで森へとやってきた心美とユキ。
以前は馬車で時間をかけてやってきたが、その過程もなくなりかなり時間も節約できた。
時間も多く残されており、ゆっくり探すことができるということで幾分か心の余裕もある。
(懐かしいね)
「あなたと出会ったのもここでしたね。あの時は咎めませんでしたが、毒入り木の実以外すべてを食べつくされたこと……私は忘れてませんよ?」
(ごめんってば。そんなに怒らないでよ)
「怒ってないので安心してください」
思い出話に花を咲かせながら森を進む。
ただ目的を果たすだけなら千里眼を開くのが手っ取り早いが、今回はユキとのお散歩も兼ねている。
普段は長々とできない会話もゆっくり楽しみたい。
そのためには心を読む瞳の使用が不可欠なので、千里眼の使用はなるべく控えたいと考えている。
「あれはユキが食べてはいけないと必死に伝えてくれた木の実ですね」
(あ、あっちにはココミと一緒に食べた木の実があるよ!)
「せっかくなので食べ歩きしましょうか?」
(するするー!)
心美が木の実を取り、肩に乗り換えたユキの口元にくるように手を持ってくる。
遠慮なくかぶりつくユキに続いて、心美も反対の手に持つ木の実を口に含む。
「やっぱり甘くて美味しいですね」
(うん、美味しい)
「こうやって楽しむのも目的の一つなので構いませんが、もう一つの目的の薬草探しも手伝ってくださいね?」
(分かってるよ。えっと……今日は何を探してるんだっけ?)
「今日はポルテモ草を探しに来たのよ。あなたも図鑑で確認したでしょう?」
(思い出した! あのおいしくなさそうなギザギザの草だね)
「そうよ。見つかるまで根気強く探しましょう」
今回の目的はポルテモ草。
ユキもその草の形状は図鑑でしっかり確認している。
覚え方はともかくとして、ユキもポルテモ草の判別に一役買うことができる。
探し物は目が多いに越したことはない。
(でも見つかりにくいんでしょ? 私と話してくれるのは嬉しいけど、やっぱりココミは千里眼を使った方がいいんじゃないかな?)
「確かに千里眼ならより遠くのものも観測できるけど確実に見つけられるわけでもなければ、本当は見ていたのに気づかないことだってあるわ」
(じゃあ地道に探すしかないの?)
「いえ、そうでもないはずよ。ルミナスさんに聞いたのですが、ポルテモ草はたくさんの魔力を蓄えているらしいです。魔力を垂れ流している訳ではないので魔力感知には引っかからないらしいのですが、私のこの瞳ならば見抜けるはずです」
心美は事前にルミナスに尋ねていた。
ポルテモ草はその性質上、より多くの栄養を取り込む。
それと同時に周囲から魔力も吸収するため、特上の魔力回復薬の材料にも抜擢されるらしい。
心美には魔力感知なるものの仕組みなどは分からなかったが、ポルテモ草が蓄えた魔力を視認できるかもしれないという可能性で十分な勝機だった。
まだ発覚したばかりの瞳だが、役に立つのならその使用は厭わない。
――――しかし――――
「全然見つかりませんね。それらしい魔力反応はありません」
(本当にあるのかな?)
「ルミナスさんの言葉を信じてもう少し頑張りましょう」
強い魔力反応を求め続けて歩き続けたがそれらしいものは見当たらない。
ユキは一向に見当たらないことに弱音を吐きだした。
だが、ルミナスはこの森で材料は揃うと明言した。
その言葉を信じ励ましの言葉を口にしながら進んだところで、心美はようやく大きな魔力反応を少し遠くに確認した。
「ユキ。あっちの方に大きな魔力反応を複数確認したわ。だけどそれだけじゃない。うっすらとだけど心の声も複数聞こえる……少し確認してみるわね」
(分かった)
手掛かりらしい手掛かりを見つけたことで千里眼を解禁。
魔力を見ることも、心を読むこともやめて様子を窺う。
心美の瞳に映し出されたのは数人の薄汚い格好をした男達が小さめの台車を引く様子。
それだけなら普通に採取にきている団体かもしれない。
だが、その荷台には多くのポルテモ草が積まれていた。
「ポルテモ草を見つけたわ。追いかけるわよ」
(う、うん)
ようやく見つけた目的の品。
人の手に渡ってしまった時点でそれは諦めるのが正しいのかもしれないが、手詰まりの現状心美は彼らを追いかけることを選択した。
千里眼テレポートで一気に距離を詰めそっと近づく。
そして再度心を読む瞳で情報を探る。
その心の断片は酷いもので、心美が拾い上げたものは闇ルート、違法、麻薬、ぼろ儲けなどといった後ろ暗いワードばかりだった。
どうやらポルテモ草は普通の薬だけでなく、麻薬に加工することができる代物らしく、この男達はこのポルテモ草を闇ルートで売りさばいて、違法に金儲けをしているようだ。
この近辺でポルテモ草を見かけなかったのも、市場にも出回らなくなっていたのもこの男達が根こそぎ集めていたからだろう。
初めは交渉を持ち掛け、ポルテモ草をわけてもらおうと思っていた心美だったが、その心を読んで真実を知り方針を真逆に転換した。
「ユキ、あの人たちからポルテモ草を強奪するわ。少しの間でいいからあの人達の気を引いてもらえるかしら?」
(いいよ)
「ありがとう。少ししたらテレポートで離脱するわ。余裕があったら私のところに来て。そうじゃないなら私が拾いに行くわ」
(分かったよ。ココミもしくじらないでね)
突然の申し出だがユキは心美を信頼して受け入れる。
ユキの役割は囮。危険な役割だが、心美を信じていてなおかつ捕まらない自信もあるのだろう。
故にユキがしたのは
「分かっています。任せましたよ」
(うん、行ってくる)
心美の肩から勢いよく飛び降り駆けだしたユキ。
わざとらしくガサゴソと音を立てながら男達の前に姿を現した。
「おっ、白い狐たぁ珍しいじゃねえか。野郎ども、こいつも捕まえて売りさばくぞ! おい、そっちに逃げたぞ、追いかけろ!」
どたどたと慌ただしい足音が過ぎていく
心美は少し気を引いてもらえればそれでよかったが、あろうことか男達は荷台をほっぽり出して全員でユキを追いかけていった。
「一人くらい見張りに残す頭はなかったんですかね?」
千里眼である程度の距離が稼げていることを確認し、心美は荷台の上に姿を現した。
そのままポルテモ草を根こそぎ掴み鞄へと詰めていく。
その他にも荷台の上には小さな木箱がいくつか置いてあり、心美はその中にも何か隠されていないか入念に調べた。
ほとんど空の木箱だったが、ある木箱と開けた瞬間中から黒い塊が飛び出してきた。
「何っ……ってもういない」
はっきりとは見えなかったが恐らく生物だろう。
しかし、黒い塊が逃げて行った先を振り返ってみてももうそこには何も見えない。
「おいこら、待ちやがれ! あ、そこのガキ! 何してやがる!」
そうこうしているうちにユキが男達から逃げて心美の元へ戻ってきた。
ユキの捕獲指示を出したリーダーのような男が荷台の上にいる心美に気付いて怒鳴り声をあげるが、もう時すでに遅し。
「では、ごきげんよう」
ユキが素早く荷台と心美の身体を駆け上がり、華麗に心美の頭に着地した。
それと同時に心美はお別れの挨拶をして、スクロールへと魔力を込めた。
無事ポルテモ草の強奪は成功。
心美達は千里眼テレポートで転移し、姿をくらませた。
戻ってきた男達が目にしたのは、荷台は荒らされ、積んでいたものが消え去って寂しく変貌を遂げた荷台の姿だった。
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