そんなに都合のいい心の声は見つからず

「うーん」


「その反応からして、お目当てのものはなさそうですか?」


 ルミナスは軽く見回って、思わしくない反応を示した。

 心美はどれも似たようなものに思えてしまうが、瞬時に判別が可能なルミナスは、数多の薬草の中に求める物はないと分かったのだろう。


「そうでした。ちょうど風邪薬と胃薬の在庫が減ってきていたんでしたね。すみませーん」


 常連であるからか慣れた様子で買い物を済ませていくルミナス。

 心美も自分の役割を果たすために、ルミナス越しに店にいる人たちを視界に収めた。


(今日は一人じゃないね)

(私もルミナスちゃんに薬と作ってもらおうかね)

(今日は納品の日だー。やだなー)


 常連のルミナスが一人ではなく連れがいる事を珍しいと思う者。

 ルミナスに薬の作成を依頼しようか悩む者。

 本日は商品の納品があり、仕事が多いことを嘆く者。

 様々な心を覗きながら、望む情報のありかを探す。


 複数ある薬の材料の情報、欠片のような小さな手掛かりだけでも構わない。

 そんな思いで目を凝らしても、ほしいものは見当たらない。


「ココミさんも成果なしでしょうか?」


「ええ、残念ながら。覚悟はしていましたがそう都合よくはいきませんか」


「私はここでの買い物は済みましたので出ようと思いますが、ココミさんは何か気になるものはありますか?」


「……正直どれも同じにみえますね。違いが分かりません」


「あはは、慣れるまでは私もそうでした。この後はどうしますか? もう少しどこかを見て回りますか?」


 心美からみてこの店に並ぶ商品はほとんど判別がつかず、どれも似たように思えてしまう。

 まだまだ知識不足なのも相まって、気になる以前の問題だ。

 だが、心美も一応の目的は果たしているのため、ルミナスの用事が済んだのならばこの店に用はない。


 しかし、このままやみくもに出くわした人の心を読んでいても、心美が知りたいことは見えないだろう。

 心の表層ではその場その場の思考しか見えてこない。

 だが、記憶をたどるには一人をずっと見続ける必要があり、それでいて瞳に甚大なダメージが発生する可能性がある。


 この場面で適しているのは心を読む瞳ではなく、もう一方だったのかもしれない。


「ルミナスさん、この後時間がありましたら、私と来てもらってもいいですか?」


 そう考えた心美は瞳を閉じ、帽子を被る深さを少し緩めて提案した。

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