心侵す眼差しに魅せられて

 自分は恵まれている。

 心美はそう強く感じた。


 容姿が普通とかけ離れていても、認めてくれる者がいる。

 これからするオリバーへの説明も、ルミナスが傍にいてくれるだけで相当に心強い。


 ルミナスは力添えは何でもすると言った。

 だが、心美はそれを断った。

 同じ場所に居て見守ってくれる。それだけで十分だった。


 オリバーへのアポイントを取り付けてもらい、偶然にも時間が空いているということですぐに話にやってきた心美。

 ルミナスに見守られ、勇気を出して打ち明けた己の秘密。

 言葉だけでは伝わらないと、実際に瞳を開いて見せて行った説明。

 それに対するオリバーの反応は心美の想像の斜め上をいくものだった。


「それがどうかしたのかい?」


「え……それだけですか? もっと、こう……ほかになんかないのでしょうか?」


 オリバーの淡泊かつ興味なさげな反応に心美は肩透かしをくらった。

 額に両手、閉じた状態ではあるが瞳はすべて表に出している。

 驚愕の反応や非難の言葉を期待していたわけではないが、ここまで何もないとは思っていなかった。


「いいんですか?」


「君がどんな姿をしていようと僕の娘を助けてくれた事実は変わらない。それでいいじゃないか。それとも、君を客として迎え入れるには危険すぎる、出ていけとでも言ってほしかったのかな?」


「う、それは違いますけど」


 あまりの拍子抜けに心美は少し後ろの方で待機しているルミナスに視線をやるが、彼女は頷くのみ。

 これがオリバー・レヴィン。

 大丈夫の言葉の意味、ルミナスの確信はこの男の事をよく知っていたからこそなのだろう。


「それより、君は大丈夫なのかい? 話を聞いた感じだとその心を読む瞳から血がいっぱい出たみたいじゃないか。便利な力だと思ったが、やはり不都合なこともあるのかい?」


「え、私は大丈夫ですけど……これが便利ですか?」


「ああ。心を読む、いい力じゃないか。その力があれば口で話すのが困難な人とでも意思疎通ができる。言葉を持たない動物とだって話せるなんて……とても興味深いよ」


 それだけでなくオリバーは話を聞いて心美を心配する始末だ。

 瞳を説明するにあたって、ニアにしたこともすべて話していた。

 レヴィン家のメイドに対して勝手なことをした謝罪も込めて。


 しかし、オリバーは許してくれた。

 そのうえでその力を考察して考えこんでいる。


「心を読む力にしても、遠くを見る力にしても、君は悪用するつもりはないのだろう? だったら僕がこれ以上言うことはない。むしろ隠しておきたかったことだろうに、正直に話してくれてありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございます」


「そうだ、ルミナス。この話を聞いて君も考えていたことだろうが、彼女に協力を依頼するというのはどうだろうか?」


「……そうですね。もし、関わらせて問題ないならとても心強いと思います」


「本来なら良くないのだろうが……今は悠長なことも言ってられないね。分かった。ココミさん、一つ頼みがある」


 お互いにお礼を言い、レヴィン家御当主への説明は終わったのだが、話は心美のあずかり知らぬ方向へ転がっていく。

 心美の後ろにいるルミナスに何やら尋ねるオリバー。

 それに少し考えて答えるルミナス。

 何の話が進んでいるのか分からずに、二人を交互に見つめる心美。

 話はまだ終わらなさそうだった。

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