恩返し
「君が隠し事を明かしてくれたからという訳では無いが、僕の隠し事も教えよう。とはいえあまり大きな声で言いふらして欲しくはない。くれぐれも外で話すようなことは内容に頼むよ」
協力、依頼。
どんな事を頼まれるのだろうかと身構える心美だったが、その前にと前置きがあり話は本題から逸れる。
しかしそれは前提の話。
無関係だった心美を関わらせる以上、知らせておくのが良いとオリバーも判断したのだろう。
「私の妻、ルチカの母親は今体調が芳しくない。元々それほど身体も丈夫でなく、子供の頃からよく身体を壊していたんだ」
「通りで……姿を見ないどころか話にも上がらないのはそういう事でしたか」
「ルチカが大喜びで君の事を紹介した時は彼女も挨拶をしたがっていたが、無茶をさせて悪化させるのは良くないから止めさせてもらったよ」
心美も気になっていた。
オリバーと顔合わせの時にルチカの母親が見えなかったこと。
心美はレヴィン家が貴族の家ということもあり、自分に割く時間を取れなかった可能性を考えていたが、事情は別にあった。
オリバーの妻、ルチカの母親に当たる人物の病。
それによって心美との顔合わせは断念。
いくら顔合わせが少しの時間しか取らないとはいえ、病人を無理させないオリバーの判断は正しいのだろう。
「それは治せるものではないのですか? ルミナスさんは薬師だとお聞きしましたが……効果のある薬は用意できないのでしょうか?」
「奥様を回復させるための薬のレシピは既にできております。しかし……材料となるものが珍しいものばかりで中々集まらないんですよ」
「そうでしたか。素人が適当言ってすみません」
心美も薬には詳しくはない。
どのように作られるかもよく分かっていない。
そんな状態でルミナスが薬師であるという理由だけで解決に導けると甘い考えを抱いた事を恥じた。
「それで、だ。私が頼みたいことは二つ。一つはルミナスの補佐。薬の材料集めに難航している彼女を手伝ってほしい」
「分かりました。私だけが受け取ってばかりでは申し訳ないので、それくらい手伝わせてください。では、もう一つとは?」
「ああ、私の妻シルフィの話し相手になってほしい」
「話し相手? 私がですか?」
一つ目の頼み事。
それは薬師ルミナスのサポート。
薬の材料となるものがどんなものか知らない以上はっきり口にすることはできないが、心美の瞳が力になれることもあるだろう。
それに対して二つ目。
オリバーの妻、シルフィの話し相手。
心美はその役割が自分である必要はあるのかを尋ねた。
「シルフィはおしゃべりが大好きなんだ。でも今は体調を崩していて長く話すことができない。僕やルチカも彼女に無理をさせないためにあまり話には付き合えない」
「なるほど。おしゃべり好きですか。無茶させないためには話を切り上げるけど、それだとシルフィさんが寂しそう、と」
「そういう事さ。だが君ならどうだ? 君は彼女を
「……この瞳ならできるでしょうね」
どちらかと言うとオリバーはこちらの頼み事を重要視しているだろう。
目をつけたのは心美の心を読む力。
その瞳でシルフィの心を読めば、病人である彼女を喋らせることなく会話を行えるのではないか。
オリバーはそう考えた。
「私がユキとやってることをそのままシルフィさんとやればいいんですね」
「ああ、だが強制はしないよ。君さえ良ければだ。シルフィの話し相手になってくれるかい?」
「ええ、分かりました。この瞳がお役に立てるのなら、私も一肌脱ぎましょう」
「助かるよ」
オリバー自身も悩んでいた。
シルフィを思うが故に、彼女の楽しみを奪わざるを得ない。
楽しみも少ない状態で苦しむ彼女に何かしてあげられないかと思う矢先に、
心美もオリバー、ひいてはレヴィン家にはお世話になりっぱなしだ。
そんな中で自分を、そして勇気をだして打ち明けた瞳を頼って貰えるならば、尽力は惜しまない。
心美は二つの頼み事をどちらも引き受ける。
それがレヴィン家に対する恩返しになると信じて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます