理解者
「盗み聞きとは趣味がよろしくないようで……」
「すみませんって……でもどうして気付いたんですか?」
心美はニアと話している途中で扉の向こうに隠れたルミナスの存在に気付いていた。
その理由を示すために心美は右手をルミナスに向ける。
「話は聞いていたのでしょう? まあ、私もルミナスさんがいる事を分かって話しましたが……くれぐれもご内密に」
そう言うと右手の手のひらに瞳が浮かび上がる。
ルミナスも事前に話を聞いていたことで驚きはそれなりに軽減されたが、やはり本来目があるはずのない部位に瞳が開くのを見せられて息の呑む。
「この右手の瞳を私は千里眼と呼んでいます。離れた場所でも覗き込める……プライバシーもへったくれもない瞳です。この瞳を一瞬だけ開いてニアさんの部屋の周辺状況を一応確認しておいたのですよ」
ニアの記憶を読んで額の瞳にダメージを受け、その瞳は確かに閉じた。
片方が閉じたということは、もう片方を開くことができる。
秘密を打ち明ける前に、知られたくない第三者に聞かれてしまう可能性を考慮してこちらを開いていたのだ。
「ニアさん……いえ、獣人が人と違うからと恐れられ迫害されるなら、私はいったいどうなってしまうのでしょうね?」
「ココミさん……」
「私だってこんなにも普通の人と違うんです。これを見た人にどう思われるか……」
ニアの不安や羨望は、心美も抱えるものだ。
それは普通の人間として暮らしてきた過去があるから一層強く感じてしまうのだろう。
「なんて、冗談です。ニアさんにも言いましたが私は私です。他の人になんて言われようと気に……しないこともないですが、私は一人ではないので」
悲しそうに俯く姿から一転、悪戯っぽく笑う心美にルミナスは呆気に取られている。
「この話を打ち明けるのは正直怖かったです。ルミナスさんやこの家の皆さんは私が初めて頼ることになった人達。そんな人達に拒絶されてまた一人になってしまったらどうしよう。そう思っていましたが、私のこの瞳はあなたの心の温かさまでお見通しなようです」
心美にとってこのレヴィン家は唯一の拠り所だ。
最大の秘密を打ち明けたことで、危険視される可能性もあった。
それこそルミナスには迷子のルチカを彼女の元へ連れてきた際に警戒もされていた。
そんな心美を守るべき令嬢から遠ざけるために出て行けと言われてしまったら、おとなしく従うつもりではあったが杞憂だったようだ。
けれどそれはあくまでもルミナス個人の問題で、レヴィン家としてはどうなるか分からない。
「キリエさんやオリバーさんにもちゃんと話します。そのうえで出て行けと言われてしまったら仕方ないでしょう。ですが……私の話を聞いて、私の秘密を知っても、私の認識が変わらなかったルミナスさんの心は、その……とても嬉しかったです、よ?」
心を読む瞳。
その瞳は扉の向こうにいたルミナスの心も拾っていた。
彼女にとって心美の話は衝撃の事実だったはずだが、逃げずに受け入れて、そして認めてくれた。
それがとても嬉しかった。
だから人を見かけで判断しない彼女に心美はニアに送る最後の言葉を任せたのだ。
「キリエさんだけでなく御当主様にも……ですか。分かりました、私も一緒に行きましょう」
「ルミナスさん……ありがとうございます」
「いえいえ。それにみんなココミさんのことを知ってもきっと大丈夫ですよ」
レヴィン家の皆様はみんな優しいですからね。
心を読まずともそう言いたいのが伝わるほど確信に満ち溢れているルミナスに、心美は今日一番の笑顔を見せた。
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