嘘はバレなければいいんです
ルチカとルミナスに促されるままに着いていく心美。
少し歩いたところにルチカ達が乗ってきたという馬車が止めてあり、心美はそれに乗せられた。
現在は膝にユキを乗せて、対面に座るルチカとおしゃべりをしながら揺られている。
「ルチカちゃんはルミナスさんのお仕事に同行したんですね。どうでした?」
「ルミちゃんのお話はつまらないの。お薬の事なんて分からないから。ね、それよりもココミの事聞かせてよ」
「私の事……ですか?」
「あ、私も気になります。ココミさんはどうして森から出てきたんですか?」
ルチカに話を振った心美だったが、薬に関係する話は退屈なのか苦い顔をされてしまう。
そしてルチカは心美の話を聞きたいと言い、御者を努めているルミナスも馬車の外から便乗する。
(どうしましょうか?)
心美は少し悩む素振りを見せる。
端的に言ってしまえば、話せることが全くないのだ。
心美が体験したのはたった三日のサバイバル生活。
(どうして……ですか。そんなの私が知りたいですよ。何せ目を覚ましたら森の中だったのですから)
中々に答えにくい問いかけに心の中で毒づく。
現状、心美の中には三つの選択肢がある。
一つ目は己が転生者であることを正直に話す。
二つ目は己が転生者であることは明かさずに、どうにかぼかして事情を伝える。
三つ目はすべてをでっちあげる。
(一つ目は信じてもらえるか分からない。三つめはこの世界についてほとんど知識がない以上ボロが出るわ。消去法ね)
「実は……」
心美は転生の事は明かさずに二人に話した。
気付いたら森にいた事やこの世界における知識がないこと。
かいつまんで話した事情はすべてを話したわけではないが、嘘もまた言っていない。
心美にとっては自分の立場を悪くしない保身。ただの嘘設定のでっちあげだったが、ルチカとルミナスは真剣にその話を聞いていた。
♡
「……このくらいですかね。話せることが少なくてすみません」
「いえ……それにしても気付いたら森に、ですか? 危険はあまりないとはいえ全くないわけでもない中で、よくぞご無事に……」
話を終えて感じたことは各々だが、ルミナスは心美を強い人だと認識した。
自分が突然見知らぬ場所に、それも記憶のない状態で放り出されていたら。ルミナスは自分に置き換えて考えてみて恐ろしく思った。
この地の実情をある程度知っているからこそ、そう易しくないことだと分かっているから。
自分とそれほど変わらない歳と思われる少女が、よく無事でいられたと強く感じた。
実際には記憶がないわけでもなく、ただ知らないというだけ。
さらに伏せている瞳がある。
心美にとってはそれほどハードなサバイバルではなかったが、ルミナスは深く同情し寄り添おうとしてくれる。
「よく頑張ったね」
「……ありがとうございます」
ふとかけられた優しい言葉に心美は目をぱちくりさせた。
ルチカは真剣に話を聞いてくれたが、子供故にすべてを理解してくれたわけではない。
しかし、心美が辛い思いをしたというのは分かった。
知らない場所に一人になることの辛さは先程身を持って経験したからだろう。
心美は自分より小さな子供であるルチカに慰められたことに驚き、その純粋な心に嬉しくなった。
「私の家でゆっくり休んで元気になってね。ね、ルミちゃん、いいよね?」
「ええ、そうですね。御当主様にも事情を説明すれば快く受け入れてくださるでしょう。私達の恩人ですし、御当主様もお優しい方なのでお嬢様の頼みを無下にすることはないでしょう」
「そうだね。早く帰って紹介しないと」
(御当主様? やっぱり……)
心美はその会話に少し引っ掛かりを覚えたが、その場で尋ねることはしなかった。
ルミナスが御者を努める馬車は一定のペースで進んでいたが、ルチカが早く帰りたい意思を述べると、少しペースアップした。
心美はどこへ連れていかれるか期待半分不安半分といった様子で、はしゃぐルチカの相手をするのだった。
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