迷子を助けただけなのに

 心美は歩きながら、少女ルチカの様子を窺っていた。


(緑色の髪に緑色の瞳。ここではこういう人はたくさんいそうね。私の容姿も変わってるしもう驚かないわ)


 ルチカ然り、心美然り、髪の色や瞳の色は派手な人が多いのかもしれない。

 前世では見慣れない故にぱっと見ではコスプレに恩われるような格好でも、この世界では当たり前のことかもしれないということを念頭に置いておかなければいけないのだ。


(この子……結構いい服着てるわね。この世界のモノの価値は分からないけれど、多分高級なはず……お金持ちのお嬢さんかしら?)


 心美はルチカの着ている服に注目して目を細めた。

 彼女が来ているものは価値の分からない心美から見てもはっきりとお高いと分かる物だった。

 あくまでも憶測にすぎないが、心美は思考を進める。


(蝶を追いかけてきたのは嘘ではない。でも明らかに外で遊ぶための服装じゃない。どこから来たのか分からないけれど、千里眼で見た感じだとこの子が少しお散歩をするような軽い気持ちでこの森に来たわけじゃない)


 ルチアは蝶を追いかけていたら知らない場所だった、と言っていた。

 それに最寄りの町はそこそこ遠い。

 近くに別荘か何か人の住む場所がない限りは、こんな小さな子供が一人でこの森近辺まで訪れることはないと心美は推測した。


(ならば近くに誰かいるはず……)


 心美はルチアと繋いでいる左手とは反対側の右手を体の陰に隠しながら瞳を開く。

 心美は出口までのルートを覚えてからはユキとのコミュニケーションを継続させるために千里眼は開いていない。

 その間に何者かが近づいて、何かの拍子にルチアが森に入ってしまったのだろうと思い、眼を飛ばす。


「やはりそのようですね」


 心美が視界に収めたのは森の少し先で何者かが誰かを探している様子。

 ルチカ自身が危機感を覚えていないため、敵性のある人物から逃げてきたとは考えにくい。

 おそらくルチカを保護する立場にある人間だろう。


(あの人もこの子を探してこちらに近づいて来ているようですし、接触しましょうか)


 心美は繋いだ手の先を見る。

 あれこれ考えている心美などお構いなしに、目に映る物すべてに興味津々なルチカは、手を緩めるとまたどこかへ行ってしまいそうなほどだった。

 心美はそんなルチカの手を離さないように少し強めに握り、彼女を探す者へコンタクトをとるために向かった。


 ♡


 念願の森からの脱出。

 その過程で肩に乗る白い狐や手を繋いでいる少女と同行者も増えたことだが、ようやくここまで来た。


 確かに時間はそれ程経っていない。だが、それは偶然に尽きる。

 瞳の力がなければ動物とコミュニケーションは取れない。遠くを見通すこともできない。

 もしユキの必死の訴えが心美に届かなかったら、うっかり毒入りの木の実を口にして、あわや大惨事になっていたかもしれない。


「無事に抜けられてよかったわ。ルチカちゃんは……あの人と一緒に来たのかな?」


「あっ、ルミちゃんだ!」


 心美は千里眼で見た人がすぐそこまで来ているのに気づき、さりげなくルチカの視線をそちらに誘導した。

 予想と違わず彼女はルチカの知る者だったようで、心美の手を放して駆けていく。


「ルチカお嬢様っ! ご無事でしたか!」


 ようやくの再会。

 真っすぐに駆け寄るルチカにルミちゃんと呼ばれた女性は膝をついて彼女を受け止めるようにして抱きしめた。

 必死に探していた様子からして、きっと気が気でなかったのだろう。


(よかったね)


「ええ、そうね…………でも、まだよ」


 その光景を見届けたことで一安心した心美だったが、ルチカを迎えた女性の視線に足を止めた。

 じっと見つめるその目は、心美を訝しむように細められていた。

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