森の出口
「ユキ、探索よ。水源から離れるのは避けたいから川沿いに移動していくわ。時々気になるものがないか千里眼で見ていきますがいいですか?」
(うん、大丈夫。ねえ、ココミの言う千里眼ってどんな感じなの?)
「……そうですね。口では説明しにくいのですが……簡単に言ってしまえば鳥でしょうか?」
(鳥? それって空を飛んでる?)
「ええ」
食事も終わり小休憩を挟んだ後、予定通り探索に出る。
探索の際は基本的にユキとの意思疎通を優先する心美だが、時々瞳を切り替えて千里眼を使うことを告げる。
それを聞いてユキは心美の使用する千里眼に興味を持ったのか、どんなものなのか尋ねる。
己の視界に反映させるその力は心美自身しか認識できない。故に他人に説明するのは難しい。
だが、少し悩んだ心美はその瞳の力を鳥と例えた。
「鳥が飛ぶように視界を動かせるの。私達がこうしてここにいるのを真上から見ることだってできるのよ」
(へえー、すごいね!)
「ええ、動かずに遠くを見れるのは便利よ」
(でも遠すぎると見れないんだよね?)
「そうです。今の私ではこの森全てを見通すことはできません。限界距離から先へ視界を進ませようとすると壁のようなものにあたって進めなくなります。もしかしたら強引に進ませることはできるかもしれませんが、この瞳に痛みが走るので無理はしない方がいいかもしれませんね」。
限界距離の壁。これも心美しか認識できないものだが、見えない壁のようなものが確かに存在する。
それはまるで警告のようで、それを無視して先へ押し通ろうとすると痛みが生じるのだ。
だから無理に使うつもりは毛頭ない。
「それでは行きましょう。使う時は一言声をかけますので」
(うん!)
♡
川沿いに沿って歩いてかなりの時間が経過した。
時計がないため正確な時間は分からないが、日は真上まで昇っている。
だがここは依然森の中で見える景色も聞こえる音もそれといった変化はない。
それでも会話があるため退屈もせずにここまで楽しく歩いてこられた。
ユキは心美の肩に乗ったり、頭に乗ったりと自由奔放だが特に嫌ではない心美は何も言わずに足を進めている。
「休憩にしましょう。私は一度千里眼を開くわ」
足を止めてそういうとユキはぴょんと心美の頭から飛び降り、了承の返事をすると川に近づいてペロペロと水を舐め始めた。
心美は両目を瞑って千里眼の瞳を開く。
「結構歩きましたがこれくらいの距離ですか」
心美は眼を飛ばす。見ているのは朝まで心美たちがいた地点だ。
心美は出発の前に手ごろな木の枝を何本か拾って地面に突き立ててきた。
それを目印にして、どれだけの距離を移動するのにどれほどの時間を要するのかの指標を求めようとしていた。
心美の現在地は前拠点から見て限界距離の半分くらいの地点。これが分かったのは大きい。
そして、心美がこれまで歩いてきた道とは反対側。心美が目指している方向。
「見えたわ。森の出口が……!」
(えっ、ほんと? って私には分からないか)
ついに見えた。果てしなく続くようにも思われた緑が、ようやく途切れだしたのを心美は観測した。
視界が森を抜けてしばらくして人が通る道らしき姿。それを辿れば人里へと行き着くだろう。
「昨日やみくもに動かなかったのは正解だったわね。少し歩けば観測自体はできたかもしれないけど、方向を間違えれば遠ざかっていた。こちら側に近づけたのは運がよかったわ」
円の範囲内を観測といっても、その瞳に映るのは変わらぬ緑。
方角も分からなければ、広い森のどのあたりに居るかも分からない。
そんな状況で乗り出した探索だったが、心美にとっては目的を一気に達成させる素晴らしい成果を伴うものだった。
「でもまた夜を明かさなければならないわね。体力的にも無理をするのは禁物ですしゆっくり行きましょう。ユキもそれでいいですか?」
(大丈夫! 人のいっぱいいるところ楽しみだな!)
「そうですか。それなら今日は頑張って進みましょう。そうすればその分だけ早く着くことができますよ」
(うん! 行こ行こー!)
疲れを見せる様子もなく元気に駆けだすユキ。
それを追うように心美もまた早足で歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます