再食料調達
眩しい光を感じて心美は目を覚ます。
少し動くと白い狐のモフモフの毛が心美の腕をくすぐった。
まだ眠っている狐を起こさないように静かに立ち上がり、身体をほぐすように伸びをする。
「まだ寒くはないのは幸いでしたが、やはり固い地面で眠ると身体が痛くなりますね。早いところ寝床を何とかしなければいけません」
森を抜ける目途が立たなかったためやむを得ずその場で夜を明かしたが、白い狐との出会いで情報を得られたり、孤独を感じずに済んだりと悪くない一日だったと実感している。
「気候は穏やかでも水は冷たいですね。おかげで目がよく覚めました」
心美は流れる水で顔を軽く洗い眠気を覚ます。
暖かな日差しが二度寝へ誘っても、一刻も無駄にしたくない心美は誘惑を振り払う。
「さてどうしましょう? まずは食料調達でしょうか?」
自分一人だけならばそれほど食料は要らないし、最悪断食でもいいと心美は考えているが、視線を眠っている狐に向けるとそれはいけないと考えを改めた。
これだけの自然豊かな環境だ。少し探せばそれなりに見つけられる物を早々に切り捨てるのはいただけない。
それに口にしていいものかどうかの判断はこの森においては遥かに先輩である白い狐がしてくれる。
食を安心できるのは素晴らしいことだ。
本来ならば同行してもらいその場で知識を授けてもらいたいところだが、後々食べられる物とそうでない物を選別してもらうのでも問題はない。
「戻ってきたときにいなくなってたら困りますが……いくら懐いてくれたとはいえまだ出会って一日。野生である以上行動は縛れません。まあ、この子がお寝坊さんであることを祈っておきましょうか」
そう小さく呟いて心美は静かに食料調達へと向かった。
♡
心美はただ真っすぐに歩く。何かを探しているとは思えないほどスムーズな足運び。
きょろきょろと辺りを見る様子もない。
なぜならそんなことをしなくても見えているから。
「やはりこの瞳は便利ですね。視界があちこち飛ぶ感覚も慣れてきましたし今度は動かす速度でもあげてみましょうかね」
心美の傍で宙に漂うように浮いてある球体。その中心には開かれた瞳。
その瞳はまるで鳥のように自由に動かせる視界を心美の閉じた片目に与えてくれる。
両目を開けたままだと本来の視界はそのままに、三つ目の視界が現れるが、両目を閉じるか片目を閉じていれば、その閉じた眼に千里眼の視界が映りこむ。
今は歩きながら使っているため本来の視界も必要なため片目しか閉じていないが、その状態にもすでに適応しつつある。
今は見つけた食料を抱えるのに両腕を使っているため、瞳はふよふよと浮かせているのだ。
「さて、こんなものでしょうか。一応昨日食べたものや狐さんが食べられると教えてくれた物と特徴が一致している物を中心に集めましたが……戻った時にまだいたら確認してもらいましょう」
昨日の時点で食べられる物と知ったのだから無謀な冒険をする必要はない。
毒のある木の実も存在する以上、確実に毒がないと分かっている物や少しでも情報を持っている物を手堅く集めるのが吉だろう。
「そういえばあの子……主食は何なのでしょう? 昨日はこれでお腹いっぱいになったみたいですが、もしかしたら肉食かもしれませんね。まあ、私にはどうすることもできませんが」
昨日の拠点は川の近くにした。
もしかしたらその川に魚などがいるのかもしれないが、今の心美にそれらを確保する道具も手段もない。
空に視界を飛ばせば鳥の群れが通り過ぎていくが撃ち落とす術もない。
仮に白い狐が肉食であったとしても心美が与えられるのはやはり集めた木の実だけだろう。
「お肉ですか……私も食べたいですね」
そんなことを考えていたからか肉を食べたくなってしまった心美は小さくため息をついた。
ないものはない。諦めも肝心。
しかし、視界に入れることができるため、一度意識してしまうと無性に恋しくなる。
そんなどうにもならない感情を胸に秘め、拠点へと踵を返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます