同僚

◎11/2(木)京野仁志→真山湊



「おはようございます!」

いつもの癖が出てしまった。大声で挨拶する。


「おはようございます。」

サエキが返してきた。大声、嫌じゃなかったのか。


「あのー、真山さん最近元気ですよね。どうしたんですか?」

サエキが初めて話しかけてきた。


「挨拶くらいは元気に行こうと思って。」

「そうなんですか。基本的に一日中ずっと元気ですよね。」

「そうですか?普通にしてるつもりなんですけどね。あはは。」

「…そういう事いつも言わないじゃないですか。何だか人が変わったみたいですね。」

「気のせいですよ。もしかしてうるさいって思ってました?」

「いやー月曜からヤケに元気に挨拶してくるから、どうしたんだとは思ってましたけど。」

「まぁ、こんな一面もあるって事で。そんなに気にしないで下さい。」

「何か不思議な人ですね、真山さん。」

「そうですか?」

「はい。」


俺の事嫌ってたわけじゃなくて様子見してたのか。確かに中身は入れ替わってるんだけどさ。やっぱり挨拶一つでもいつもと違うと怪しまれるんだな。


「さて、今日はどこに行くんだっけ。」

独り言を言いながら今日の予定を確認する。

それをまた横目で見るサエキ。湊に対する見方が今までとは明らかに変わっていた。




予定していた営業先を全てまわり、早めに会社に戻ってきた。

少しして、サエキも戻ってくる。

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です。」


「あのー、真山さん。」

「はい?」

「今日仕事終わったら、何か食べに行きませんか?」

「え?いいですけど、急にどうしたんですか?」

「いや、ちょっと行ってみたい店あるんだけど一人じゃなと思って。」

「おー、行きましょう!何の店ですか?」

「海鮮居酒屋です。」

「いいですね。海鮮好きだし、行きましょう!」

「はい。じゃあ決まりで。携帯で予約しておきます。」




二人とも定時で終わり、歩いて10分ほどの海鮮居酒屋に入る。


「何飲みます?」

「生ビール中ジョッキで!」

「じゃあそれを2つと、あとメニュー決めましょうか。」

タッチパネルで次々とメニューを選び注文する。


ビール、刺し身盛り合わせ、ホッケの塩焼き、タコの唐揚げ、焼き鳥が運ばれてきた。

「ここの刺し身美味しいらしいです。あと、だし巻き卵も。後で追加で注文しましょう。」

「へー詳しいんだね。」

「雑誌で見たんです。もう全部が美味しそうで、早くここに来たかったんですよ。」

「確かに繁盛してるみたいだね。もう全席埋まってる。ていうか、敬語やめません?疲れません?」

「確かに疲れますね。やめます。」

「じゃあ、敬語禁止にカンパーイ!」

「カンパーイ!」


会社で挨拶するだけだったのに、お酒の力を借りて打ち解けた二人は、どんどん酒と食が進む。

追加で来ただし巻き卵をサエキが嬉しそうに食べる。

「そんなに美味しいの?どれどれ。」

湊も食べてみる。

「うん、これは美味しいわ。俺たまに家で作るんだけど、後でこっそり味付け聞いてくるかな。」

「それいいね。聞いたら俺にも教えてほしい。」

「聞くのはタダだからな。あと他に聞いてほしい味付けある?」

「ちょっと、真山さんほんとに聞かないでよ。またこの店に来たいんだから目つけられたくないよ。」

「あははは。来て一回目で出禁になったら悲しいな。」

「そうだよ。勘弁してよ。」


あっと言う間にラストオーダーの時間が来た。

「最後はやっぱりビールで締めるか。」

ビールと残ったつまみを平らげる。




「もう飲みすぎて食べすぎて苦しいわ。」

ヨロヨロと歩く二人。

「まさか真山さんとこうして飲みに行くとは思わなかったな。」

「また行こう。今度は俺が店探しておくから。」

「よろしく。だし巻き卵の旨い店ね。」

「どんだけ好きなのよー!」




それぞれタクシーで家に帰った。

まさかサエキさんからご飯に誘われると思わなかったな。話してみたらノリのいい奴だったし面白かった。


この間買った漫画を思い出し、読み始める。

「そうだ、今日は先に風呂溜めてこないと。」

小走りで風呂場へ行く。


そろそろ買った漫画も読み終わりそう。明日あの本屋にまた行かないと。

懐かしい漫画に夢中になり、少し風呂のお湯を流してしまった。

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