独り言

◎10/30(月)京野仁志→真山湊



湊の会社に時間前に無事に着いた。

デスクを見つけて椅子に座り、パソコンの電源を付ける。隣の男性も少しの時間差で椅子に座る。


「おはようございます!」

「…おはようございます。」

男性は不思議な顔で見ている。もしかして声大きかったかな。名前はサエキさんか。


「今週も頑張りましょう。」

今度はボリュームを落として話してみる。

「…はい。」

素っ気ない返事が帰ってきた。

そんなに話しかけない方がいいのか?難しい。


湊は健康食品の営業なので、外回りがほとんど。

仁志も営業職なので、扱っているものは違えど営業の大変さは十分分かっているつもりだ。


結果を出せればいいが、出せない月は上司から責められ胃が痛くなる。

湊さんは中々の成績らしい。今日の予定をパソコンや脳内記憶で確認し、会社を出る。


一人で営業だから気が楽だ。社用車には健康食品が何種類か積んである。

見たことのある商品が数点あった。


今日は4箇所ほどまわった。

基本はルート営業だから、意気込んで新規開拓はしなくていい。早めに会社に戻り報告書等を仕上げる。




定時より少しオーバーしたが、19時前には会社を出れた。

初日の会社は、思った通り緊張と疲労で大変だった。社内の雰囲気はまぁ悪くない。一週間やっていけそうだ。


「お疲れ様でした!」

まだサエキさんは残業をしている。

挨拶をして会社を出た。




「少しこの辺を歩いてみるか。」

 携帯の地図アプリを見て会社周辺を歩く。

人通りも結構あって街は賑やかだ。


湊の部屋には漫画が置いてなかったし、読みたい気持ちがどうしても収まらず本屋を探す事にした。

この辺だと2箇所ある。小さめの所と大きめな所だ。今日は小さい古本屋に行くことにした。


通路は歩くのがやっとといった広さで、店主は年老いたお婆さんのようだ。立ち読みをしている人が一人だけで、あとは湊だけ。

品揃えは良いとはいえないが、ずっと読みたかった漫画が置いてあり嬉しくなる。


「うわ、これ昔読んでたなぁ。懐かしい。」

「確か最後ってあいつにやられるんだよな。」

「あれ、俺これ持ってたかな?買っておいた方がいいか?」


どうやら漫画好きには穴場の場所のようだ。

自分の独り言が丸聞こえなのも全く気付かず、『湊』は嬉しくて夢中で漫画を探す。あれもこれも欲しくなり、気付くと10冊の漫画本を手に持っていた。レジに行き会計する。


「随分嬉しそうに探すんだねぇ。いいの見つかったかい?また店に来てちょうだいね。」

お婆さんはニコッと笑い、湊に本を渡す。

「はい!絶対また来ます。」

「これ良かったら使って。」

お婆さんは湊に栞を渡す。昔のアニメキャラの栞で、今じゃ見かけない貴重な物だ。

「良いんですか?このキャラ好きなんですよ!いやーめっちゃ嬉しいです!」

「あっははは、そんなに喜んで貰えると思わなかったわ。良かったら使って。」

「ありがとうございます。大事に使います!」


紙袋に入った本を何度も見て嬉しそうに歩く。

またあの本屋に行って掘り出し物探そう。気付いたら1時間近く本屋にいたようだ。

お腹も空いたので、見つけた牛丼屋に入る。


牛丼大盛りがすぐ運ばれてきた。紅生姜、唐辛子を乗せてかき込む。

(うまいなー。すぐ食べ終わりそう。)

あっと言う間に食べ終わり一気に水を飲む。

「ごちそうさまです!」

店を出て、バスに乗って家に向かった。




冷蔵庫から缶ビールを取り出す。さっき買った本を眺め、何を読むかしばらく悩む。


「んーこれも読みたいけどこっちも気になる!いやーどうしよう。」


手に取ったのは仁志が昔嵌って読んでた漫画。

一人暮らしする時に手放してしまい、読みたくても高額で売られていて中々買えなかった。

まさか定価で買えるなんて思っても見なかった。


お風呂に入るのも忘れ、漫画の読むペースとビールを飲むペースが比例して進む。

3冊読み終え、時計を見ると23時だった。


「やばい!もうこんな時間だ!風呂溜めてこないと。」

急いで風呂場に行きお湯を溜める。溜めている間も漫画を読み続ける。


風呂からあがり、漫画のセリフに突っ込みを入れながら缶ビール片手に読み進める。0時過ぎまでそれは続いた。




仁志は集中すると周りが見えなくなり突き進んでしまう。湊になっても相変わらずだった。


ランからのメールも気付かないまま夜が更けていった。

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