初日(仁志→湊)

なんだか布団が重い。ずっしりと体にのしかかっている。思いっきり布団を剥がす。


目を開ける。

すぐ自分の部屋じゃない事に気付く。


(そうか。ここは湊さんの部屋だ。入れ替わったんだな。)


洗面所を探し、鏡で確認する。

端正な顔立ちにスマートな体型だ。


部屋のインテリアは白で統一されている。

本棚には小説がズラリと並んでいる。

仁志がよく読む漫画は置いてない。


壁には彼女との写真が何枚か飾ってあった。

かわいらしい顔だけど性格がキツそうな感じがする。でも、優しそうな湊さんとは丁度良いバランスなのかも。


服が無造作に重ねておいてある。

部屋全体的には散らかってるように見えないから、最近置いた服かな。電話口で、彼女との事を話す口調が辛そうだったからそれが影響してるんだろう。


部屋を見て色々と予測をする。そういう察知能力も仁志が得意とする所だ。


そうだ!仁志は思い立ち、さっき見つけた湊の冊子を読む。

えーっと、記憶を呼び寄せるにはどうだったかな。


『脳内記憶を呼び寄せる方法は、心の中で同じ事を2回思って下さい。そうすればすぐに頭に浮かんできます。』


そうそう。これだ。早速2回繰り返す。

『彼女の名前 彼女の名前』

ランさんか。


『ランさんのあだ名 ランさんのあだ名』

呼び捨てで呼んでるのか。


湊の携帯や、この辺の行きつけの店など、脳内記憶を使ってリサーチする。




しばらくの間リサーチしたからか、少し疲れてきた。

時計も見ないでずっとやってたけど、今何時だ?


壁に時計は無く、ベッドの上の目覚まし時計だけだった。現在13時半ちょうど。

ちょうどいいタイミングでお腹が鳴る。


冷蔵庫を見ると缶ビールと卵、少しの調味料しか入ってない。

面倒だと思ったが、スーパーに買い出しに行くことにした。




アパートから5分ほどの所。小さなスーパーで一通りの物は置いてあるが種類はそんなに無い。

久しぶりにカレーが食べたくなり、ルーや野菜、肉をカゴに入れる。コーラも忘れずに追加で入れた。

この他にも数日分の食材を買い、部屋に戻る。


取りあえず今食べる分の中華丼を温める。

カレーは夕食として作ることにした。


遅い昼食を食べ終わり、湊の携帯をイジる。

彼女との通話履歴がある。

この日から喧嘩したのか。そのうち俺もランさんと直接話したりする時が来るかも。

ただでさえ自分の恋愛がうまくいかないのに、他人の恋愛に関してうまく仲裁?できるのかな。

ま、その時が来たらどうにかするしかない。




カレーがいい感じに出来た。炊きたてのご飯にルーをたっぷりかける。福神漬けを買い忘れた事に気付いて少しがっかりする。

辛口のカレーが口や喉を刺激する。じんわりと汗を掻きながら、あっと言う間に食べ終わった。


いつもと同じ位に分けたはずなのに苦しい。多く分けすぎたかな?それとも湊さんが少食なのか。

やっぱり体は湊さんになっているんだ。

おかわりするつもりだったが今日はやめた。

皿を洗い、ソファに座り一休みする。




冊子をめくり、湊についての情報を確認する。

会社の基本情報、仕事内容、取引先。取りあえずこれを抑えておこう。


9時から仕事だから、通勤時間を考えて8時半に出れば間に合う。

着ていくスーツも準備して、置いてある物の場所も大体覚えた。


風呂に入り、疲れを癒やす。高そうなシャンプーが置いてあり、遠慮なく使う。


風呂上がりに冷えた缶ビールを二缶飲み、目覚まし時計をセットして眠りについた。

明日からどんな事が待っているのか。今は不安よりも期待の方が大きかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る