二次審査 AM/湊

ついにこの日が来た。

パッと起きて時計を見ると6時少し前。


昨日はいつもより早く寝て睡眠時間を確保するつもりだった。だが結局、セットした目覚ましよりも早く起きたので睡眠時間は普段通り。

けれど、睡眠はちゃんと取れたので体調に問題はない。ホッと胸をなでおろす。


湊はもともと睡眠を人より多く取らないと、次の日にかなり影響が出る。こういう大事な日は尚更睡眠時間に気を使う。


ヒゲを剃り化粧水をつけ、しっかり髪を整える。

身だしなみをいつも以上に入念に行う。


朝食を食べ終え片付けたあと、テレビをつけて一息つく。やっぱり少し緊張してる。テレビの内容が全く頭に入ってこない。


約束の時間が近づいてきた。

鍵を締め、アパートの道路脇で車を待つ。

5分ほど待ち、白い車が近づいてきた。

「真山湊さん、おはようございます。今日は夕方まで試験審査を行います。体調は大丈夫でしょうか。」


「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」


「ここから約1時間、車で走った所で試験を行います。現地までの場所を特定されないため、アイマスクで目隠しをしていただきます。こちらをお付けください。」


緑色のアイマスクを受け取り、装着する。

ガタガタと揺れる車の居心地が悪く、早く到着してほしいと願う湊だった。






約1時間車に揺られ現地に到着した。


チチチチチ…


鳥の鳴き声だ。結構山奥に来たのか?何となく空気も澄んでいる感じがする。

運転手に手を引かれ、目隠しをしたまま歩く。


「少し段差があるので、足元に気をつけて下さい。はい、ここで一度止まって靴を脱いでください。目の前にスリッパを置きましたので、履き替えて下さいね。」


少しよろけながら靴を履き替え、少し歩いて立ち止まる。


「真山湊さん、アイマスクを取ってください」


アイマスクを取る。見渡すと10畳くらいの部屋。

真ん中に椅子が1脚、その対面に3脚置かれていた。


(最初に面接かな。3対1か。)


壁の時計は9時10分を指している。


「携帯など、外部と連絡が取れるものはお持ちですか?情報漏えい防止のため、お帰りまでこちらで預からせて頂きます。」


湊はズボンのポケットに入れていた携帯を取り出し、運転手に渡す。


「ありがとうございます。こちらの椅子に座って少しお待ち下さい。今呼んでまいります。」


運転手はドアを閉め、廊下から聞こえる足音が遠くなった。


5分経っても誰も来ない。部屋を見回したり、何度も時計を見る。

少しこの姿勢に疲れてきた。いつまで待てばいいんだと思っていると、突然ドアが開いた。


湊は立ち上がり会釈する。

男性、女性、男性の順で、スーツを着た人達が入ってきた。会釈して椅子に座る。



「お待たせしました。真山湊さんですね。早速これから面接を行います。あっ、どうぞおかけください。」

一番左端の男性がニコッと笑みを浮かべながら話しかける。


「はい。本日はよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。真山湊さんの簡単な自己紹介をお願いします。」

「はい。真山湊、28歳、健康食品の営業をしております。趣味はショッピングや小説を読むことです。」


「はい。湊さんに質問です。応募動機に、今回の応募は冒険だとありましたね。どういった事なのでしょうか。詳しく教えて下さい。」

「はい。自分ではそうは思わないですが、他人から見たら物足りなかったり、冷たく見えたりするようです。表情もそんなに変わらないので余計そう見えるみたいで。今回のこの応募も本当ならするタイプじゃないんですが、勇気を出してしました。これが自分なりの冒険です。」


「分かりました。ありがとうございます。確かに、擬似体験というのは未知の世界ですから応募するというのはすごく勇気が要りますよね。これで面接は終わりです。簡単なアンケートがあるので、こちらにお書き下さい。」


ペンと紙を渡され、一つの質問が書いてあった。

すぐに書き終わり、男性に渡す。


「次は健康診断を行いますので、私の後についてきてください。」

「はい。」


4人はぞろぞろと縦一列に歩く。


足音が響くなぁ。すごく広い施設。

部屋もたくさんあるみたいだ。



面接会場から200mくらい離れたところに、体育館のようなホールがあった。


検査する場所がそれぞれ設置されている。


「真山湊さん、こちらで健康診断を行います。血圧、身長、体重、採血、尿検査、心電図の順で行っていきますね。」

さっきの面接で、真ん中に座っていた女性が担当のようだ。他の2人はいつの間にかいなくなっていた。


誘導されながら、次々と検査をしていく。

30分ほどで全ての検査が終わった。


「おつかれさまでした。午前中の試験が終わりましたので、休憩室で13時までお休みください。時間になったら、部屋まで迎えに行きます。では、こちらです。」


進んだ先に部屋があるようだ。1分ほど歩くと『休憩室』と書かれた部屋があった。



10畳ほどの広さで、ビジネスホテルの簡素版といった感じの部屋だ。

テレビ、ベッド、テーブル、ソファ、電話、洗面所、アメニティ、トイレが備え付けられていた。

窓は一つもなかった。


テーブルの上には、雑誌、お菓子、弁当、飲み物が置いてある。


『ご自由にお召し上がり下さい』と書かれたメモがある。


時計を見ると、10時半を少しまわっていた。


ソファに座りしばらく考え込む。

(面接では言いたいこと言えた。もしも試験が通ったらしばらく彼女と連絡が取れない。勢いで応募したから先の事考えなかったな…)


ペットボトルの水を飲む。

テレビを付けて、チャンネルを回す。

再放送のドラマがやっている。彼女と一緒に見たやつだ。この頃は、今みたいにすれ違いとか殆ど無くて平和だったな。


しばらくドラマの世界に浸る。


時計を見ると11時半。トイレに入り、洗面所の鏡を覗き込む。

作り笑顔をしてみるが不自然で思わず笑ってしまう。相変わらず表情筋が硬い。

ハァーとため息を付き、顔を洗う。


ソファに座り弁当を食べ始める。

弁当は野菜炒め定食。唐揚げとエビフライも入っている。水を少し飲み、フーっと一息つく。

何度も時計を確認しながら、約束の時間までパラパラと雑誌を眺めていた。



『コンコンコン』


「真山湊さん、午後の試験が始まります。こちらへどうぞ。」

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