最終日前半 怜と奈美
◎4/29(土)葉山怜→仁井田奈美
奈美はいつもの場所でユウジと待ち合わせ。
今日が奈美としての最後のデート。
どこに行くかはお楽しみって言われたから、着くまで秘密だって。
他愛もない会話をしながら街の景色を見ていると、見覚えのある所を走っている事に気付く。
それは怜の地元だ。
よくサキと一緒に遊びに来る街。
(まさかここで遊ぶなんて思わなかった。平常心で過ごさないと…)
ユウジはたまにこの街に遊びに来るらしい。
おすすめのアイス屋に向かう。
(ここ、いつもサキといく店!この辺じゃ美味しいって有名なんだよね。)
「奈美ちゃん何食べたい?」
「うーんと…ミルクとイチゴのダブルがいいな。」
「オッケー。じゃああそこで座って待ってて。」
近くのベンチに腰掛ける。
はぁーなんか知ってる所でデートだなんて、緊張する。
ユウジがアイスを買って来た。一つしか持ってないみたい。
「奈美ちゃんと一緒に食べようと思ってこれだけにした。はい、アーンして。」
えっ恥ずかしい。
口を開けて一口食べる。濃厚で美味しい。
「俺にも食べさせて?アーン」
口を開けて待ってるユウジを待たせないように、急いで食べさせる。
「あー美味しい。今まで食べたアイスで一番美味しい!」
「もー、大げさですよ〜。でもほんと美味しいですね。」
アイスを食べ終わり次はどこに行こうかと話している時、近くのスーパーの入口付近である人を見かける。
怜の母と『怜』だ。
二人は楽しそうな雰囲気で、スーパーに入っていく。
(お母さん久しぶりに見た。元気そうで良かった。ほんの一ヶ月ちょっとなのにすごく懐かしい…。)
動揺した事をユウジに気付かれないように平静を装う。ランチは寿司屋に行くことにした。
食べ終わり、店を出てユウジの車に乗る。
次の目的地を決めようとユウジが言いかけた時、
「ごめんなさい。何だか具合悪くなっちゃった…。今日は帰ってもいい?」
「マジ?大丈夫?」
奈美のオデコを触る。
「熱は無いね。顔色は、んー少し悪いかなぁ?じゃあ続きはまた今度にしよっか。」
「はい。ごめんなさい。」
「いいから気にしないでー。またいつでも遊べるんだからさ!」
(ユウジさんとのデートはこれが最後なんだけどね…。)
いつもの所で降ろしてもらい、家に戻る。
真っ先にソファに横になる。
(仮病使っちゃった。お母さんの顔見たら、デートする気分じゃなくなっちゃったよ。)
カバンの中から、初日に預かった携帯を取り出す。
(本当は『もう少し奈美を体験したい』って連絡しようと思ってたけど、もう十分遊んで満足したからいいかなぁ。)
何より、何日も食べてない母の料理が食べたい。
母と世間話をしたい。その気持ちの方が強かった。
◎4/29(土)仁井田奈美→葉山怜
怜と母は電車に乗っていた。
怜の提案で、今日は街に出掛けることにした。
目的は、母とお揃いのあるモノを買う事。
実は昨夜、初日に預かった携帯で【ホワイト化学製薬】に連絡をした。
「もう少し怜さんを体験する事はできますか?」
「それは出来ません。」
「じゃあ、擬似体験中に得たもの…例えば本や雑貨などは元の世界に持ち込む事はできますか?」
「…4月30日0時の時点で、持ち込みたい物を両手で触れていれば、戻った時に側にあるはずです。ただ、生物、現金は持ち込めません。」
もう怜さんを体験できないのなら、せめて何か母とお揃いのものが欲しい。
何がいいか考えた結果、お揃いの『栞』を買う事に決めた。
10時頃本屋に着き、二人は真っ先に栞コーナーへ行く。
母に選んで貰ったのは、綺麗な桜柄の栞。
小さな栞に、鮮やかな色の桜の花びらが何枚も描かれている。怜はひと目見て気に入った。
母と同じものが買えた。嬉しくて仕方なかった。
次は、いつも行くスーパーに寄る。
怜のリクエストで今夜はすき焼きになった。久しぶりのすき焼きだからお肉をいつもより奮発しようという事になり、国産の高い肉を選ぶ。
「今日は私が払うから。好きなものどんどんカゴに入れていいよ!」
「おっ、太っ腹〜!じゃあ遠慮なく入れちゃうよ!」
母は嬉しそうに野菜や果物、飲み物を入れる。
今までで一番楽しい買い物だ。
母の笑った顔が大好き。こっちまで幸せになる。
袋を一つずつ持った二人は、少し休んでから帰ることにした。
「あそこのアイス食べない?高いけど美味しいよね〜。お母さん奢るからさ。」
「いいの?やったー!」
それぞれ好きな種類を頼み、ベンチに腰掛けて食べ始める。
(んー濃厚で美味しい。)
ふと横を見ると、車の助手席に見覚えのある人が乗っていた。
(もしかして『怜さん』かな…そんなわけないか。家から結構離れてるし。)
アイスを食べ終わった二人は電車に乗り込み帰路に着いた。
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