反撃

◎4/24(月)葉山怜→仁井田奈美



寝不足だ。昨日は携帯のゲームにハマって止まらなくなってしまった。


眠い目をこすり、砂糖を一回、二回、三回目は迷ったけど辞めた。甘いコーヒーを作る。


今日はどうにか乗り切ろう。そう思いながらいつものように皆に挨拶をして、椅子に座る。


受付の仕事は忙しい。

電話対応、来客対応で一瞬でも気を抜けない。

相手に合わせて、理不尽な事があっても一旦飲み込み感情的にならないようにする。


簡単に言うと、自分を押し殺す。

何故なら、会社の顔だから。会社の顔は感情的であってはならない。


受付は派遣の仕事とは違い、常に周りに気を配り自分を押し殺し自分の感情は後回し。

相手より一周りも二周りも大人の対応をするのが基本だ。


怜は、実際奈美になって受付をするまでは簡単な仕事だと思ってた。でも、やってみてそれが見事に覆された。何度か感情的になりそうになったがグッと堪え乗り切った。


奈美さんはすごいな。臨機応変に対応するのって、想像以上に大変だしストレス溜まる。私には無理な仕事だ。


時計をチラチラ見ながら、早く帰る時間にならないかと願う。私生活は最高に楽しいけど、仕事に関しては苦痛だった。




終業時間あと10分ほどという所で電話がかかってきた。

「お世話様です。あ、奈美ちゃん?」

「はい。…どちら様ですか?」

「あははは、分からない?俺だよ、細川!」


え?電話かけてくるなんて初めて。電話口だとこんな風に聞こえるんだ。


「すみません。いつもお世話になっております。ご要件は何でしょうか?」

「いやー特に用件はないんだよ。声が聞きたかっただけ。」

「え?」

「とぼけないでよー。奈美ちゃんの声に決まってるじゃん!所で、今日これから飲みに行かない?」

「今日は早く帰らないといけなくて…」

「…嘘でしょ?この間なんてまた佐々木と飲みに行ってたじゃん。何で俺とは飲みに行けないのよ?」

え?!細川さん、見てたってこと?


「何で知ってるんですか?どこかから見てたんですか?」

「いやー違う違う。たまたま歩いてたらさ、二人一緒の所見たんだよ。酔ってたみたいだし飲んだ帰りでしょ。ねぇ、俺とも行こうよー。」

「…この間も同じような事言ってましたよね?もしかして跡つけてますか?」

「え?んなわけないじゃん!たまたまだって言ってるでしょ。」

「いや、おかしいですよ。色んな所で会うし、私の事監視してますよね?」

「は?自惚れんなよ。何で俺が疑われないといけないの?ふざけんなよ!」

やっと本性出した。


「これじゃ、ストーカーですよ?今度同じような事したら警察呼びますよ!」

「はぁ?何で俺がストーカーになるんだよ!ざけんなよ!」


ブツッ。電話が切られる。


ちょっとカマかけすぎたかな。でもいいや。

キモかったし、今度何かして来たら絶対通報してやる。

女だからって見くびんなよ!

こればっかりは、会社の顔だなんて言ってられない。あいつばかりは絶対許せない。


一連の奈美の言動を見てた人がいた。

交代で受付する子だ。


その子と目が会い、二人で苦笑いする。

「変なとこ見られちゃったね。皆には内緒ね?でも、スッキリしたー。」

「言いませんよ。もしかしてあの人ですか?細川さん。あの人、しつこいですよね。」

「そう、その人。もしかしてユミさんも言い寄られてる?」

「はい。何回か遊びに行こうって言われてるけど断ってますよ。あの人遊び人で有名ですもん。」

「しつこいよね。一回ランチ一緒に行ったけど、もう行かない。」

「行ったんですか?もう行かない方がいいですよ。気を付けて下さいね。」

「うん、そうする。お互い気をつけよう!」


どんだけ手出してるんだか。呆れるやつ。

もう絶対関わらない!

ランチだけで済んで良かったかも。




上に通すか、通さないか。

関わっていい相手か、関わってダメな相手か。


派遣だと分からなかった、人を見極める力が少しついたような気がした。

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