色違い

◎4/15(土)、4/16(日)仁井田奈美→葉山怜



奈美は疑似交換で今まで自分がやってきた事を思い返していた。


私がやりたかった事はほとんどと言っていいほど叶った。

「普通の事」って、こんなに幸せな事だったんだ。

誰にも気に留められないって、こんなに居心地よかったんだ。

できることなら、このまま怜さんで居たいな。


バッグから手帳を取り出す。今日は4月15日だから…

期限までの日付を数える。残りあと15日。


友達と映画に行って、仕事帰りに皆で飲んで、会社では目立たず淡々と仕事して…

後悔なく終わるために、あとは何をしておけばいいのか。少しゆっくり考えてみよう。


部屋のソファで色々考えているうちにウトウトしだす。意識がゆっくり遠くなっていくのを感じながら眠りにつく。




コンコンコン

「怜?ご飯だよ。寝てるの?」


ドアを叩く音と声がかすかに聞こえて目を覚ます。

(やばい。寝ちゃってた。)


「今行くよー。」

急いで返事をし、ンーーっと大きく背伸びをする。


台所に行くとカレーのいい匂いがする。

「怜、ご飯どのくらい?いつも通りでいい?」

「いいよ、自分で分けるよ。」

「そう?分かった。」


怜さんのお母さんはいつも色々世話してくれる。ついお母さんの優しさに甘えてしまう。居心地良くて、本当の娘だと錯覚してしまう。


…そうだ。明日は、お母さんと出かけよう。美味しいもの食べたり、ショッピングしよう。


「お母さん、明日出かけない?ご飯食べたり買い物行こうよ。」

「いーねー。春物セールやってるかも!もう終わったかな〜。最近何流行ってるの?怜に選んでもらおうかな。」

「たぶんやってると思うよ!掘り出し物見つけなきゃね。」

「お母さんそういうの得意だわ。任せて〜。」

「色違いでも買っちゃう?」

「いいの?前嫌がってたのに。色違いだと姉妹に見えるかしら。」

「それはどうだろうね。見えるかもよ。」

「楽しみね。じゃあ明日朝ごはん食べたら出かけよう。」

「分かった。電車の時間決めよう!」




次の日の朝、8時45分の電車に乗り込む。

晴天で買い物日和。休日ということで車内も混んでいる。

電車に揺られながら最初に行く店を決める。


店に着き、二人はそれぞれ店内を歩いて服を見る。

小柄な怜が着るサイズが豊富にあり、夢中になって見て回る。

(これ、お母さんに似合いそう。あ、これも!)

何着か母の分も選びながら一通り店内を見終えた。


「お母さん、これお母さんに似合うと思うよ。着てみて?」

「どれどれーあらかわいいね。さすが怜、探すの上手!着てみるね。」

試着室に向かう。

(私もこれ試着してみよう。)

2着ずつ買った二人は次の店に向かった。




「久しぶりにたくさん買ったね!お得なのゲットできたし大満足だよ。色違いも一つ買ったしね。」

「うん。ちょうどいいサイズあって良かったよ。やっぱりセールはお得に買えていいよね。」

「うんうん。ちょうどいい時に来たね。明日から早速着るわ。怜も明日色違い着てよ?」

「マジ?じゃあそれ着て会社行こうかな。」

「いいじゃん。一緒に来ていこう。」


友達みたいなお母さん。子供の時もこんなお母さんに憧れたなぁ。やっぱり一緒に買い物してても楽しいし、会話も弾むし、いいなぁ。




「ただいまー。さ、弁当温めて食べようか。」

「うん。お腹すいた〜。先に部屋に荷物置いてくるね。」

「分かった。温めておく。」

「ありがとう。」




紙袋を床に置き、色違いの服をベッドに広げる。

母と色違いの服着るなんて、今まで無かったからなんか嬉しいな。

奈美は自分の母と怜の母を改めて比べる。同じ母親でも色々な母親がいるんだなーと思った。


さ、ご飯だー。

歩き疲れたはずの足は、今日はなぜか疲れを感じない。軽い足取りで母が待つ台所に向かう。

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