半年ぶりの再会

◎4/14(金)葉山怜→仁井田奈美



『金曜の夜にお父さんと久しぶりに遊びに行こうと思うけどいい?返事ちょうだいね!』

昼休みに携帯を見ると『母』からメールが入ってた。このメールを見て最初に思ったのが『え、嘘でしょ?!』

戸惑いしかなかった。


奈美さんの両親が遊びに来る?何話したらいいの?

何て返事をしたらいいか分からなかった。

返事をしないまま夜になり考え込む。


冊子を読み、少しでも奈美の情報を頭に入れようと思ったが両親の事は書いてなかった。

『脳内記憶』で両親と奈美の思い出を手繰り寄せる。


……


浮かんだのは、奈美を大事に思う気持ち。

とにかく、奈美がかわいくて、大事で、本当なら側に居たい。奈美を思う気持ちが強すぎて、脳内記憶だけでも両親の愛情の重圧がヒシヒシと伝わる。


そんな両親が実際に会いに来るとなると…うまく対応出来なかった時はどうなってしまうだろう。

『奈美』は不安しかなかった。


断ってもきっと理由をつけて来るだろうと考え、奈美は両親を家に招くことにした。

これは私への試練なんだ。やるしかない。

並々ならぬ決意で、両親との対面を果たすつもりだった。






「奈美さん?大丈夫?」

受付の同僚に声をかけられハッとする。

時計を見ると交代の時間が少し過ぎていた。

「ごめん。ちょっと考え事してた!」

「何だか思い詰めた顔してたよ。」

「そう?ちょっと疲れてるのかも。ごめんね、もう交代の時間だもんね。」


ロッカーに向かい、帰る支度をする。

心なしか奈美の後ろ姿はいつもより自信なさげに見えた。




奈美の両親と待ちあわせの時間まであと10分ほど。ソワソワして仕方ない。会ったら何を話そう。

そればかり考えてしまう。


ハァー。ため息をつく回数が増える。

色々な会話のシュミレーションを考えては思い直す。何の会話が一番ベストなのか、分からなくなっていた。


両親の乗った電車が到着した。

奈美は気合いを入れて、両親との対面を決意する。


「奈美ちゃーん!久しぶりー!」

シーンとした改札口で声が響き渡る。

奈美は無言で手を振り合図をした。


「ようやく会えた〜。もっと早く来たかったけど中々都合がつかなくてね。元気にしてた?」

「うん。こないだも電話で話したじゃん。」

「なによー会ったの半年ぶりよ?冷たいわね〜!」

「そんな事ないって。寒いから早く家に行こう。」

母の話を遮り、家に向かう。

(お父さんは無口なのかな。まだ声聞いたことない。)


家に付き、3人ともソファーに腰掛ける。

「そうだ、これお土産ね。奈美の好きなコーヒーとクッキー買ってきたから。あとさっき食べた店で買ってきた海鮮丼。」

「やったーありがとう。」

(キッチンに何個かあったドリップコーヒーだ。)

「あら、ちょっといつもより散らかってるんじゃない?」

(やばい。早速チェック入った〜。これでも綺麗にしたつもりなのに。)

「最近忙しくてさぁ。これでも片付けてるんだよ。」

「じゃあ仕方ないわね。そうだ。お母さん片付けに来ようか?」

「いいよー!自分でやれるから!」

全力で拒否する。頻繁に来られたら困る。

「ねぇ、疲れたでしょ?先にお風呂に入ってきたら?ご飯は食べてきたんだもんね。」

「そうだね。じゃあそうする。」

父、母、奈美の順でお風呂に入る。


全員が揃いソファでくつろぐ。

一息ついてから、奈美が口を開いた。

「そうだ。さっきもらったご飯食べていい?」

「いいよ。お腹すいたでしょう。駅で美味しそうな海鮮丼屋さん見つけたのよ。」

「へー美味しかった?」

「うん。刺し身がたくさん乗ってて美味しかったわよ、ね?お父さん!」

「うん。ちょっと具が多すぎる位だった。」

「そうね。確かに多かったわね。」

「そんなに乗ってたんだ。楽しみ〜!」

ガサガサと袋から丼を取り出す。

かに、いくら、まぐろ、サーモン、その他にもご飯が見えないくらい色々乗ってる。


「いただきまーす。」

一口食べると口いっぱいに海鮮の美味しさが広がる。んー美味しくて箸が止まらない。


夢中で食べてると、急に視線を感じた。

パッと前を見ると、二人と目が合う。

二人は嬉しそうに、奈美が食べているのを見ている。何だか恥ずかしい。

「なに?見られてると食べ辛いよー。」

「あはは。ごめんね、奈美ちゃんと会うの久しぶりだし、かわいくてつい見ちゃうのよ。ほら、食べて食べて。」

(悪気はないみたい。ただ奈美さんがかわいくて仕方ないんだな。お母さんから来る頻繁な電話もこれで納得だ。)




奈美さんは幸せな人だ。

男性から好意を持たれすぎて確かに生き辛さもあるけど、私からしてみたらやっぱり羨ましい人生だ。


生まれ持った容姿、両親の愛情…怜とは別世界の輝かしい人生を生きる奈美は遠い遠い存在に思えた。

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