危険な関係

◎4/8(月)葉山怜→仁井田奈美



『久しぶり!元気にしてた?突然なんだけど明日遊べる?この間と同じ時間と場所でいいかな?』


金曜日の夜、ユウジからメールが来た。

デートのお誘いかぁ。嬉しいけど、ユウジさん彼女持ちだしなぁ。

…でも彼女は近くに住んでないみたいだし、色々連れてってくれるし行こうかな。



公園前でユウジの車を見つけて、助手席に乗る。

「おはようございます。」

「おはよう!今日は映画観に行こうよ。いいよね?」

「はい。観るの決まってますか?」

「まだだよ。アクションとホラーだったらどっちがいい?」

「うーん…ホラーがいいです。」

「オッケー。んじゃ行こうか!」

今日もかっこいい。イケメンは目の保養になる。


「最近何してたの?奈美ちゃんからデートの誘いないから寂しかったよ。」

「またまたぁ。彼女さんいるのに〜。」

「デートの時はその話はやめようよ。ね!」

「そうですか?じゃあやめときます!」

奈美はペロッと舌を出してみせた。



少し走ると映画館に着いた。10時前だけど週末だからか混んでいる。

「何か食べたいのある?」

「じゃあ、ポップコーンとウーロン茶!」

「オッケー。」


開場まであと10分。ソファに座って時間まで待つことにする。

「この映画、結構怖いみたいだけど大丈夫?」

「そうなんですか?たぶん大丈夫だと思います。ユウジさんこそ大丈夫ですか?」

「俺はこういうの好きだから平気だよ。ホラーは結構観るからね。」

「よく映画観るんですか?私も好きで家で色々観てますよ。」

「観るよ〜。家で観るのもいいけど、やっぱ映画館で観たくなるね。」

「映画館は久しぶりだから楽しみです。ポップコーンも楽しみ!」

「分かる〜食べ始まると止まらないんだよね。」


席は後ろから3番目の右寄り。

ほとんど席は埋まっていた。ポップコーンを置くと、早速二人は食べ始める。

「やばい、止まらないわ。」

「独り占めしないでくださいね〜。」

「だって手が勝手に動くんだもん。」

そうしてるうちに照明が薄暗くなり、映画が始まる10分ほど前になった。


スクリーンに次々流れてくる映画情報をじっと観る。チラッと、気づかれないようにユウジさんの横顔を見るといつもと違う真剣な表情に驚く。

(こんな表情もするんだ。初めて見た。)

照明が暗くなった。いよいよ映画が始まる。




映画も中盤に差し掛かった頃、話も段々と後半に向けてヒートアップしてくる。

サイコホラー系か。何にしろホラーはいつ何が来るか分からないからドキドキする。


突然、奈美の左手の上にユウジの右手が重なる。

エッ?とビックリしてると、ユウジはさらに強く握ってきた。自分の手が汗ばんできてるのが分かる。

映画が終わるまで二人の手は重なったままだった。




エンドロールが終わり、館内が明るくなった。

重なった手は、ユウジがゆっくりと離し元に戻る。

(手の汗やばい。なんか気まずい…。)


「いやーちょっと最後の方ビックリしたね。奈美ちゃんどうだった?目開けれた?」

「はい…私も最後は怖くて心臓バクバクでした。」

(違う意味でバクバクだった。)

「周りから悲鳴聞こえてきたしね。奈美ちゃんも叫んでなかった?」

「怖かったので…。やっぱり大画面のホラーは迫力ありすぎますよね。」

「そうだね。家で見るのと全然違うね。」


手を握ったことは二人ともスルーしたまま、映画館を出て街を歩く。

「お腹すいたね〜。この辺でおすすめの食べるとこ知ってる?」

「え?えーと、私いつも映画だけ観たらすぐ帰るんですよ。だから全然分かんないです。」

「へーそうなんだ。じゃあどこがいいかなぁ。」

「じゃあ、あそこでちょっと行列出来てるラーメン屋さんどうですか?」

「いーよー。並ぼう!奈美ちゃんラーメン好きなの?こないだもラーメン屋で会ったもんね。」

「あ、そうでしたね!あれはほんと偶然でしたよね。」

「うん。俺、結構運命感じたんだよ。」

ユウジはニコッと嬉しそうに笑う。


店に入れるまであと4組目の所で、ユウジの携帯がなる。


「もしもし、おつかれー。うん。」

ユウジは奈美に人差し指で『シー』の合図をする。

(彼女からだ。)

「さっき映画観終わって今からラーメン食べるとこだよ。うん。」

(うん。確かにその通りだもんね。)

「分かった。また後で電話するね。午後も頑張ってねー。バイバーイ。」


二人は顔を見合わせる。

「彼女からだった。いま昼休みだって。」

「仲良いんですね。最近いつ会ったんですか?」

「だいたい2週間前かな。月に2回会えればいい方だね。」

「そうなんですね。じゃあ近いうち会うのかな。」

「あれ、嫉妬しちゃった?かわいーなー!」

「違います!聞いただけですよ!」


こうやってユウジさんと遊んでる事知ったら、彼女傷つくよね。もしかしたら驚かそうとして内緒で遊びに来る可能性だってあるし。

あーでも、ユウジさんと遊ぶの楽しいからこの関係切りたくないな…。


「あのーユウジさん。ユウジさんとこうして遊ぶの楽しいからこれからもそうしたい。でも彼女を傷つけたくないです。どうしたらいいですか?」

「ストレートだねぇ。奈美ちゃんやっぱ面白いわ。」

ユウジは楽しそうに笑う。


「俺も彼女にバレて傷つけたくないし、こうやって奈美ちゃんとこれからもデートしたいよ。」

ん〜とユウジはしばらく考え出す。


「この辺で遊んでると、彼女突然来るかもしれないもんね。少し遠出して遊ぼうか。」

「それなら安心ですね。この辺に知り合いは居ないんですか?」

「居ないよ。ここ家から離れてるしね〜。じゃあ、次から遠出ね!」

「はい。そうしましょう。」




罪悪感はある。でも、今しかできないことを楽しまないともうすぐ擬似体験が終わっちゃう。バレなきゃいいんだ。バレなきゃ。


怜は元の自分から段々とかけ離れていく。

止めてくれる友達もいないし、今は母親は電話の向こうにいる。

行動が段々とエスカレートしていってるのは自分でも分かっていた。

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