贅沢な時間

◎4/7(金)仁井田奈美→葉山怜



金曜日の夜、母と家で焼肉をした。

牛肉、豚肉、鶏肉を順番に焼き、玉ねぎとピーマンとにんにくを焼いていく。

モクモクと勢いよく天井に上がる煙が目に染みた。


明日は予定もないから、にんにくも好きなだけ食べる。焼くとホクホクして美味しいんだよね。軽く塩コショウを振って食べるのが特に好き。


美味しくてつい食べすぎてしまい、お腹のことを考えて整腸剤を飲む。大抵はこれを飲めばいい感じになる。母も食べすぎたらしく同じ薬を飲んでいた。


「今日は特ににんにく食べてたねー。お母さんも食べ過ぎちゃった。明日は出かけないの?」

「うん、今の所はね。たぶん家でゆっくりしてると思う。お母さんは出かけるの?」

「あそこのデパートで北海道フェアやるみたいだから、明日行こうと思ってさ。怜も行く?」

「ううん、留守番してるよ。」

「分かった。何か食べたいのあったら先に行ってね〜買ってくるから。」


生チョコと札幌ラーメンと函館ワインを頼み、自分の部屋に行く。


お母さんは買い物が好きみたい。あと、新商品とか期間限定ものが好き。たまに一緒にスーパーに行くと、色々見て回るから面白い。

けど、明日はゆっくりしよう。

何だか体が少し疲れてるみたいだし。



ソファにゴロンと横になり、漫画本を手に取る。

怜さんが持ってる漫画本は半分以上読んだ。ジャンルは様々で、完結してる漫画がほとんど。

続きが気になって、夜ふかしした事が何回かあった。すっかり漫画の魅力に取り憑かれたみたい。


今日はこれを読もう。一気に5冊棚から取り出し読み始める。



私と怜さんがいま体験してる事ってまさに漫画のような話。体と心が入れ替わって、それぞれの生活を送る。この事は他の誰にも知られてはいけない。


怜さんになってみて、落ち着いた生活や母親の美味しい手料理、友達と遊ぶ事が今は何より幸せ。


薄情かもしれないけどこの数週間、実母からの電話も取る必要がなくなって、寂しいとか声を聴きたいとか思うことが無かった。


元々、質素な生活が好きな奈美は、生まれ持った容姿と心のアンバランスに生き辛さを感じていた。



「はぁー最高の週末だ。」

ソファに横になり思いっきり上に腕を伸ばす。

今週末は漫画を見たり映画を見たり家でゴロゴロするつもり。


来週の火曜は仕事終わりにコウタさんと二人でご飯を食べに行くことになった。会うのはあの飲み会以来。二人で会うのはちょっとドキドキする。

サキに言ったら、予想以上に喜んでた。


コウタさんがおすすめの居酒屋に連れて行ってくれるみたい。またお酒の力を借りて、楽しい時間過ごしたいな。

今度は絶対に飲みすぎないようにしないと。

この間、酔った勢いで変なこと言ってないよね。ほんと、酔って記憶無くすって危ないな…。



本棚にあるメイク雑誌を何冊かパラパラ眺める。

怜さんはメイクが好きみたいで、化粧道具が豊富にある。雑誌を参考に、いつもと違うメイクをしてみる。いつもナチュラルメイクだから、中々うまく行かない。

書いては消してを繰り返して、何とか雑誌に似せたメイクが完成した。

火曜日このメイクで行ってみようかな。



時計を見ると21時すぎていた。そろそろお風呂に入ろう。お母さんもう入ったかな?


お母さん、お風呂の時って必ず鼻歌歌うんだよね。すごい気持ちよさそうに歌うからこっちも楽しくなる。

明るくて、子供思いで、ほんとにいいお母さん。

交換相手が怜さんで本当に良かった。


風呂場に行くと、既にお母さんは入った後だった。鼻歌聴きたかったな〜なんちゃって。

明日は休みだし、ゆっくりお風呂に入ろう。


そうだ。この間久しぶりに入溶剤とフェイスマスク買ってきたからそれ使おう。

それと、さっきの漫画の続き見て、明日は目覚ましかけないでゆっくり起きよう。


誰にも干渉されずにゆっくり過ごす週末は、いまの私の贅沢な過ごし方。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る