強気

◎3/30(木)葉山怜→仁井田奈美



擬似体験をしてもうすぐ一週間。


環境や生活にもほとんど慣れてきて『奈美』を楽しんでいた。

街を歩けば相変わらず人の視線を感じるし、会社では毎日デートの誘いが来る。みんな優しくしてくれるし毎日が天国みたい。



何日か前、奈美と同年代位の取引先の人と仕事帰りに飲みに行った。

怜の実際の年齢より少し年下だから流行りの話題には困ったけど、結構楽しく飲めた。

また飲みに行く約束もしたし楽しみ。

しかもカッコいいの。見てるだけで癒やされる。


誘われて誰とでも遊ぶっていうわけじゃなくて、ちゃんと好みの男性を選んで遊ぶ事にしてる。

私にだって好みはあるからね。


本当の私は、会社の人に誘われた事なんて無いし、仕事が終わればほとんど真っ直ぐ家に帰ってた。

まさに逆転生活。

お母さんの料理が恋しくなる時もあるけど、今はこの刺激的な生活が楽しくて仕方ない。


また今度違う人と飲みに行く約束もした。

もちろん好みの男性と。



昼休み。いつもと違うお店に行こうと思い、アプリで店を探す。

レビューが高めのラーメン店に行くことにした。

10分ほど並び、席に座る。

先に座ってた人の顔に見覚えがあり、少し考える。

(あーこの人、初日に会った人だ。連絡するの忘れてた。気まずいなぁ。)


ちょこんと座り、塩ラーメンを注文して待つ。

右側から視線を感じたけど、気づかないふりをした。が、すぐにトントンと肩を叩かれた。


「どうも。俺の事覚えてる?」

「え?あぁ、この間メモ貰いましたね。連絡しそびれてました。すみません…。」

「いいよ気にしないで。でも実はずっとナミちゃんから連絡待ってたんだよねぇ。」

「すみません。私忘れっぽくて…。」

「いいよいいよー!良かったらナミちゃんの電話番号とメアド教えて?今度遊びに行こうよ。」

「はい。いま書きますね。」


バッグからペンを取り出し、ナプキンに書いて渡す。

受け取ったユウジは嬉しそうに笑い、「じゃあまたね。連絡するね!」と言って店を出た。


毎日充実しすぎてすっかり忘れてたよ。年齢はたぶん30歳前後くらいかな。確か名前は、ユウジさんだ。メモ渡したしきっと連絡くれるよね。



母からの電話は相変わらず二日に一回位来る。うまく交わして長話しにならない様にしてるしそんなに苦ではない。


楽しい事ばかりなんだけど、強いて言えば女子と交流が無いことだな。

会社の受付も私一人でやるし、あとは男の人ばかり。たまには女子とランチとか映画とか行きたいな〜なんて思う日も出てきた。



仕事帰り、スーパーに買い物に行った。

何度かこのスーパーに通い少しずつ物の場所も覚えてきた。


野菜、肉、フルーツ、ワイン。歩いて帰るから、重すぎない程度の食材をかごに入れる。

クリームチーズを入れ忘れた事を思い出し、チーズコーナーに行く。


女の人が冷たい目でジーッと奈美を見ている。

最近知り合った人でも無いし…脳内記憶を辿る。

(高校の同級生か。カナっていう人ね。)


「元気そうだね。仕事帰り?」

話しかけてきた。

「そうだよ。カナも元気そうだね。」

「…奈美、毎晩いろんな男の人と遊んでるみたいだねー。相変わらずじゃーん。同級生のみんな噂してるよ。モテモテで羨ましいなぁ。」

イヤな女。負けてらんない。


「でしょー!モテすぎて困ってるんだ〜。みんな私の事ほっとかなくてさー。誰か紹介しようか?」

カナは眉間にシワを寄せさらに睨んできた。

「じゃあね〜!」

奈美は手を振ってその場を去った。


あーースッキリした。あの顔ウケるわ。

悔しかったら整形でもしたらいいのに。

あーいうやつにはガツンと言わないと分からないんだからあれでいいんだ。



奈美さんごめん。同級生についあんな事言っちゃったけど、許して。

だっていま最強に無敵なんだ。

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