初日(奈美→怜)
眩しい…カーテン越しの朝日がまだ眠い奈美を強引に起こす。
長い夢を見たような気がした。布団から起き上がると、ここは知らない部屋。怜さんの部屋だ。
あの薬ちゃんと効いたみたい。
ゆっくり立ち上がり、近くにあった鏡を覗く。
怜さんに変わってる。なんだか不思議な感じ。
時計を見ると、10時半。
休日の奈美はいつもゆっくり起きる。今朝は特にすっきりした目覚めで体が軽い。
そういえば、怜さんって母親と住んでるんだよね。
うまく演じなきゃなぁ。一番バレちゃいけない人だもん。
クローゼットを見ると、ラフな服装が多い。適当に服を選んで着替える。
階段を降りて、キッチンに水を飲みに行く。
色々な調味料や食材のストックが置いてある。飲み物も、コーヒー、紅茶、お茶の種類が豊富だ。
紅茶を淹れ、椅子に座って休んでいると向こうから足音が聞こえてきた。
「おはようー今日は起きるの早いじゃん。あら、珍しいね〜朝から着替えるなんて。」
「そう?」
(そっか。怜さんは休日はもっとゆっくり起きるのか。)
「お母さんも紅茶飲む?」
「え?淹れてくれるの?」
「うん。砂糖はどうする?」
「甘いのがいいから、ミルクと砂糖よろしく〜」
淹れ終わり、母親と向かい合って座る。
「何か今日はいつもと違うね。変に気が利くし。昨日何か良い事でもあった?」
ドキッとした。顔色を変えないように、
「何もないよーいつも通りだよ。」
母親のカンは鋭い。
「何か食べる?作ろうか?」
「ううん、まだお腹空いてないから要らない。これ飲んだら部屋に行ってゆっくりするよ。」
「分かったら。じゃあお母さん適当に作って食べちゃうよ。」
洗面所で顔を洗う。歯ブラシは棚から新しいのを見つけてそれを使った。
部屋に戻り、カーテンを開けて外を眺める。
奈美の住んでる所より、住宅がそんなに密集してない。交通量も多くないし、静かでいいなぁ。
優しい母親、静かな環境。平凡な暮らしを望んでいる奈美にとっては一番手に入れたかったもの。
奈美の母は良く干渉してくる。離れて暮らしてるが、よく電話を掛けてきて取らないと勝手に機嫌を悪くする。奈美はいつもそれが面倒だった。
お昼がすぎてお腹も空いてきたので、居間に向かって何か作ることにした。
テーブルにはオムライスが置いてある。
美味しそう。でも勝手に食べれないし…。
そうだ、この箸がもし怜さんのだったら食べていいって事だ。
オムライスと一緒に置いてあった箸を見て、
『怜さんの箸 怜さんの箸』
昨日、冊子を読み込んでいたので『脳内記憶を呼び寄せる方法』はもう分かっていた。
やっぱりこれは怜さんの箸みたい。じゃあ食べていいんだね。食べちゃおう!
んー美味しい。オムライス好きだし、作ってもらうのってやっぱり嬉しいな。
こんな気持ちになったの、今まであったかな。
母親は料理が不得意で、ほとんどレトルトや出前や外食だった。手料理は幸せな気持ちになる。
噛み締めながら食べてると、
「何そんなニヤけて。一体どうしたのよ〜。」
怜さんの母親に見られた。
「いやー美味しいなと思ってさ。」
「そう?いつもと同じ味だよ。怜、オムライス好きだもんね。」
「うん。」
「今日は出かけるの?」
「ううん、部屋でゆっくり休むよ。」
「そう。お母さんもう少ししたら買い物行ってくるね。」
「わかったー夜は何作るの?」
「もう夕飯の話?早いなぁ。今日は鶏胸肉安いから唐揚げ作るよ。」
家のご飯が楽しみな気分ってこんな感じなのかな。オムライスを食べ終わったばっかなのに、既に夕飯の事を思ってワクワクしている。
部屋に戻り、棚を見ると結構な数の雑誌が置いてある。ほとんどがファッションとメイクの本。
あとは漫画本が何冊かあった。奈美は漫画はほとんど読んだことない。
恋愛漫画を手にとって読み始める。
少しだけのつもりが、先が気になりアッと言う間に3冊読み終わった。世界観に引き込まれた。
漫画ってこんなに面白いんだ。
今まで読まなかったのは勿体無かったな。
奈美は今まで感じなかった事や新しい事を知れて、目の前の世界が広がっていくのを感じた。
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