二次審査 AM/怜

早起きが苦手な怜は、目覚まし時計を3個セットしていた。携帯・古い携帯の計2個、目ざまし時計の1個で全部で3個。


3個目の目覚ましをようやく止めて、時計を見ると6時48分。


ストーブを付けて少し体を温め、急いで顔を洗い歯を磨く。今日は1日がかりの試験。しっかり朝食を取っていこう。

少し時間に余裕持ちたいから急がないと。


母は週末はいつもゆっくり起きるから、自分で朝食を作る。

ベーコンエッグ、ミニトマトを皿に乗せ、ご飯をよそう。一皿に全部乗せれるこのプレートは怜のお気に入り。


ベーコンエッグに塩と胡椒をふり、いただきますと手を合わせてモグモグと食べる。


頭もだんだん冴えてきて、後片付けをして化粧を始める。昨日買ったアイシャドウを早速使う。

いつもよりも気合が入って、メイクが濃くなっちゃう。少しメイクを手直しして、髪を整える。


歯を磨きながら時計を見ると、7時45分を指していた。うがいをして鏡を見て、頬をパンパンと軽く叩き気合を入れる。


今日で人生が変わるかもしれないんだから、全力で頑張ってこよう!


駆け足で家を出て、待ち合わせ場所に向かう。

5分ほど待った所で、白い車が近づいてきた。


「葉山怜さん、おはようございます。今日は夕方まで試験審査を行います。体調は大丈夫でしょうか。」


「はい。大丈夫です。今日は、よろしくお願いします。」


「ここから約40分、車で走った所で試験を行います。現地までの場所を特定されないため、アイマスクで目隠しをしていただきます。こちらをお付けください。」


オレンジ色のアイマスクを受け取り、装着する。

瞑想するイメージで、頭の中を空っぽにして目を閉じる。落ち着け、わたし。






約40分車に揺られ現地に到着した。

途中で道が悪い所を通ったようで、酔う寸前までいったけどどうにか堪えた。


チチチチチ…


鳥の鳴き声が聞こえる。ここは都心から離れた山の中らしい。

運転手に手を引かれ、目隠しをしたまま歩く。


「少し段差があるので、足元に気をつけて下さい。はい、ここで一度止まって靴を脱いでください。目の前にスリッパを置きましたので、履き替えて下さいね。」


よいしょと靴を脱ごうとすると、目隠しをしてるためバランスを崩す。すかさず運転手が支えてくれた。少し歩き、立ち止まる。


「葉山怜さん、アイマスクを取ってください」


アイマスクを取る。見渡すと10畳くらいの部屋。

真ん中に椅子が1脚、その対面に3脚置かれていた。


(最初に面接やるのかな。)


壁の時計は8時50分を指している。


「携帯など、外部と連絡が取れるものはお持ちですか?情報漏えい防止のため、お帰りまでこちらで預からせて頂きます。」


怜はコートのポケットに入れていた携帯を取り出し、運転手に渡す。


「ありがとうございます。こちらの椅子に座って少しお待ち下さい。今呼んでまいります。」


運転手はドアを閉め、廊下から聞こえる足音が遠くなった。


5分経っても誰も来ない。背筋をのばして、ずっと緊張しっぱなし。さすがに疲れてきた。

少し背中を曲げ姿勢を崩した所で、ドアが開いた。


急いでピッと背中を伸ばして立ち上がり会釈する。

男性、女性、男性の順で、スーツを着た人達が入ってきた。会釈して椅子に座る。



「お待たせしました。葉山怜さんですね。早速これから面接を行います。あっ、どうぞおかけください。」

一番左端の男性がニコッと笑みを浮かべながら話しかける。


「はい。本日はよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。葉山怜さんの簡単な自己紹介をお願いします。」

「はい。葉山怜、27歳、中央ナカタ出版に派遣社員として勤めております。母と二人暮らしで、趣味は映画鑑賞や海外ドラマを見ることです。」


「はい。怜さんに質問です。応募動機にあった、キラキラした人生というのはどういうものか詳しく教えて下さい。」

「はい。私は容姿も性格も地味で、学生時代もいわゆるカースト上位とは無縁でした。自分にはどうすることもできず、ずっとこの地味な人生を送るしかないんだと思っていました。」


話す言葉に力が入る。


「もしも、交換擬似体験ができるなら、容姿も整った誰もが振り返る美人になって、ちやほやされてみたいんです。うんざりする位男の人からアプローチされてみたい。私と真逆の女性を体験したいんです!」


握りしめた手のひらはうっすら汗をかいている。


「男性にモテたい、ちやほやされたい、という事ですね?」

「はい、そうです。街を歩くだけで誰もが振り返る…そんな体験をしたいです。」


「分かりました。ありがとうございます。これで面接は終わりです。簡単なアンケートがあるので、こちらにお書き下さい。」


ペンと紙を渡され、一つの質問が書いてあった。

すぐに書き終わり、男性に渡す。


「次は健康診断を行いますので、私の後についてきてください。」

「はい。」


4人はぞろぞろと縦一列に歩く。


この施設、かなり広い。そして建物がどこを見てもきれい。



面接会場から200mくらい離れたところに、体育館のようなホールがあった。


検査する場所がそれぞれ設置されている。


「葉山怜さん、こちらで健康診断を行います。血圧、身長、体重、採血、尿検査、心電図の順で行っていきますね。」

さっきの面接で、真ん中に座っていた女性が担当のようだ。他の2人はいつの間にかいなくなっていた。


誘導されながら、次々と検査をしていく。

30分ほどで全ての検査が終わった。


「おつかれさまでした。午前中の試験が終わりましたので、休憩室で13時までお休みください。時間になったら、部屋まで迎えに行きます。では、こちらです。」


進んだ先に部屋があるようだ。1分ほど歩くと『休憩室』と書かれた部屋があった。



10畳ほどの広さで、ビジネスホテルの簡素版といった感じの部屋だ。

テレビ、ベッド、テーブル、ソファ、電話、洗面所、アメニティ、トイレが備え付けられていた。

窓は一つもなかった。


テーブルの上には、雑誌、お菓子、弁当、飲み物が置いてある。


『ご自由にお召し上がり下さい』と書かれたメモがある。


時計を見ると、10時を少しまわっていた。


スリッパを脱ぎ、ベッドに横たわる。

(はぁーどうにか午前中乗り越えた。午後は体力テストだな。他にも試験やるのかな。)


ベッドの上で手足を真っ直ぐ伸ばし、左右にゴロゴロゴロゴロと揺れる。

何となく、緊張した体がほぐれるような気がした。


思いっきり、ンーっと背伸びをし、スリッパを履いてトイレに行く。


ソファに座り、パラパラと雑誌をめくりながらお菓子をつまむ。リモコンでテレビを付けると、バラエティの再放送が流れていた。

5分ほど見ると、ソファの座り心地が良いせいか、睡魔に襲われた。


(ここで寝ちゃったら起きる自信ないな。さっき携帯預けちゃったし…)


時計を見ると、10時半。

(目覚ましあれば1時間は寝れるのにな。)


ふとテレビの端を見ると、ちょこんと目覚まし時計が置いてあるのを見つけた。


ちゃんと動いてる。目覚まし機能も付いてる!

試しに1分先にセットする。


ピーピーピーピー…


音が鳴った。

怜は早速11時半に目覚ましをセットする。

2回3回、ちゃんとセットしてあるか、ちゃんと音がなるか確認して、ベッドの棚の上に置く。


(寝坊しませんように…)


早起きしたせいか、あっと言う間に眠りについた。



ピーピーピーピー… ピーピーピーピー…


目覚ましが鳴り、音に気づいた怜が起きた。


(起きなきゃ。あーなんかすっきりした。)


よいしょ、と起き上がる。

気づいてよかった、と胸をなでおろす。


時計は11時34分。トイレに行き、ソファに座る。

テレビを付けると、さっき見たバラエティがまだやっていた。つい12時すぎまで見てしまった。


野菜中心の弁当を食べ、お茶を飲み、お腹が満たされる。12時半を少し過ぎ、歯磨きをする。


メイクを直そうと思い、バッグからメイク道具を取り出す。特にマスカラはいつも力を入れてる。

さらにボリュームを出すためいつもの様に重ね塗りをした。


鏡を見て、メイクに満足した怜はイーっと口を横に動かし表情の確認をする。


洗面所で食後の歯磨きを済ませ、ソファに腰掛けテレビを消した。


(もうすぐ午後の部が始まる。なんだか落ち着かない。面接を受けたりしてる時間より、待ってる時間の方が色々考えちゃって辛いなぁ。)



『コンコンコン』


「葉山怜さん、午後の試験が始まります。こちらへどうぞ。」

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