一次審査 怜と奈美
封筒を投函し、一週間が過ぎようとしている。
だめだったかな…日に日に諦めムードになる。
あの応募条件を見る限り、応募人数も多いだろうし、選ばれる確率ってどの位の倍率なんだろう。
宝くじを当てるのと同じくらいかな、いやそれ以上かな。
応募しただけでも、私にとっては道が開けたような気分だった。それだけで充分なのかもしれない。
怜は相変わらずいつもと代わり映えのない日常を送っていた。
サキとランチに行き、ベーコンとレタスのクリームパスタを注文する。
「あの交換擬似体験ってまだ応募してるのかな。怜は興味あるの?」
「私は別に興味ないなぁ。交換できたとしても、戻れる保証はないじゃん。」
「だよねーごめんなさい戻れないです、なんて話じゃ済まないもんね。」
(何となくサキには応募したこと言えなかった。
っていうか、誰一人に言ってないし言うつもりもない。もし、体験できる事になっても内緒にするつもり。)
待ちに待った週末。仕事が終わり開放感でいっぱいだ。サキは彼氏とデートだし、今日は少し寄り道して帰ろう。
本屋に寄って前から気になってた小説を2冊買った。次にドラッグストアに行って、新作のアイシャドウを買う。
おしゃれには興味がある方だけど、だんだん流行りの服を買うペースが落ちてきた。
彼氏が居れば、デートの時に何を着ていくか迷ったりするだろうけど…週末はたまにサキと遊ぶか、家で映画や海外ドラマを見てるかだもんなぁ。
(彼氏ほしい、優しい彼氏ほしー!)
電車に揺られ、少しウトウトする。
怜が降りる駅に着いた。
あともう少しで家に着くという時に、携帯が鳴る。
バッグから取り出し画面を見ると知らない番号だった。
通話をタップし、警戒しながら聞き耳を立てる。
「もしもし、葉山怜さんの携帯ですか?」
「…はい、そうですが。」
「突然のお電話すみません。ホワイト化学製薬と申します。先日は、交換擬似体験にご応募いただきましてありがとうございました。」
「!」
驚いて声が出ない。
「もしもし、葉山さん、聞こえてますか?」
「はい、聞こえてます。すみません驚いてしまって。」
「いえいえ。書類審査が通りましたので、連絡致しました。実は二次審査がありまして、急なんですが明日の一日ご都合いかがですか。一日がかりの試験審査になります。」
「明日は何も予定が無いので大丈夫です。」
「左様でございますか。明日の朝8時、葉山さんの自宅前まで白い車が迎えに参ります。時間に遅れることのないよう気をつけて下さい。それと、健康診断と体力テストもありますので動きやすい格好でお越しください。」
「分かりました。あの…すみませんが、家族に知られたくないので、少し先の待避所で待っててくださると有り難いのですが。」
「かしこまりました。では、明日よろしくお願いします。失礼いたします。」
「こちらこそよろしくお願いします。失礼いたします。」
携帯を持つ手が震えてるのが分かる。
心臓の音がバクバクと聞こえる。
高揚したまま、家に入っていく。
(ガチャ)
玄関の鍵を開けて中に入り、まっすぐ部屋に向かう。布団に横になり、さっきの電話の内容を回想した。
勢いで応募した書類が通った。今までの私なら、思うだけで行動には起こさなかったから。
勇気を出して応募してよかった…。
「怜、帰ってるんでしょ?ご飯食べないの?」
母親の呼ぶ声が聞こえた。
今行く、と返事をして居間に向かう。
母親に、明日朝早く友達と遊びに行く事を話す。
「随分朝早いね〜。気をつけていってきてね。明日の朝、雪降るかもしれないってよ。」
「雪か〜寒そうだな。転ばないように気をつけるよ。」
夕飯を食べ終えて片付け、お風呂に向かう。
いつもより早めにあがり、明日の準備をする。
コート、マフラー、手袋…そうだ、動きやすい格好って言ってたから、シャツとスキニーパンツで行こう。
明日の試験って何するんだろうなぁ。体力テストはあるでしょ。あとは、筆記試験とか、面接とかかな。あ〜すごい緊張してきた!早く寝よう。
奈美は交換擬似体験に応募してから、ポストを確認しては落胆する日々を過ごしていた。
一週間たったけど、何も来ないってことはだめだったかな。選ばれるってかなりの確率なんだろうし、期待しすぎるのも良くないか。
会社では相変わらずランチやディナーのお誘い、そして電話攻撃。
それでも笑顔で仕事をしないといけない。この現実を今日もやり過ごす。明日も明後日も…。
仕事が終わり、帰り支度をしてフロアを出る。キョロキョロと周りを見渡し、小走りで家路を急ぐ。
突然、携帯が鳴った。
この時間に鳴ることは珍しい。自分の携帯番号は、取引先の人達には教えていない。
かかってくるとしたら、母親くらい。
番号を見ると知らない番号だった。
10秒で留守電になるように設定してるので、そのまま様子を見ることにする。
着信音が途絶え、次に音声が録音されている。
録音が終わり、通話終了の文字を確認する。
ドキドキしながら留守電を聞く。
すると、思っても見なかった音声が録音されていた。
「突然のお電話すみません。ホワイト化学製薬と申します。書類審査が通りましたので、連絡致しました。詳細をお話したいので、折り返し連絡を頂ければ幸いです。失礼いたします。」
自分が選ばれた…擬似体験ができるんだ。
奈美の心臓は激しく波打つ。
深呼吸をして、すぐに折り返し電話をかける。
プルルルル プルルルル
「はい、ホワイト化学製薬です。」
「はじめまして、先程連絡を頂いた仁井田奈美と申します。」
「はい、連絡お待ちしておりました。今、担当者に変わります。」
「仁井田さん、折り返しの連絡ありがとうございます。留守電を聞いて頂いたと思いますが、先日の擬似体験の審査に通りました。急なんですが、明日二次審査が行われます。明日のご都合いかがですか。一日がかりの試験審査になります。」
「はい、明日大丈夫です。行けます。」
「左様でございますか。明日の朝8時、仁井田さんの自宅前まで白い車が迎えに参ります。時間に遅れることのないよう気をつけて下さい。それと、健康診断と体力テストもありますので動きやすい格好でお越しください。」
「分かりました。明日はよろしくお願いします。」
「では、明日の朝お迎えに上がります。」
電話を切りその場に立ち尽くす。仕事帰りの人たちが次々と奈美を追い越していく。
(一次審査突破のお祝いにコンビニに寄って少し高いワインを買おう)
今日はコンビニで細川さんに会わなかった。きっと良いことが待ってるハズ。そんな気がした。
ワインと生ハムを買い、家に急ぐ。
軽く夕食を済ませ、ワイン少しと生ハムをつまみ、お風呂に入る。
今日は一番好きなラベンダーの入浴剤を入れて、ゆっくりと浸かった。
さっぱりとした気分の奈美は、明日の準備を済ませて早めに布団に入った。今夜は楽しい夢が見れますように、と願いながら。
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