二次審査 AM/奈美

早起きの奈美は、いつもと同じ時間に目覚ましをかけていた。目覚ましが鳴り6時に起きて、ンーっと背伸びをする。


寒がりだから、朝は起きる30分前にエアコンが付くように予約している。


ぐっすり眠れたからか、今朝はいつもより体が軽い。


顔を洗って歯磨きをする。

軽く髪を結び、朝食を作る。オムレツと野菜スープを作ってご飯をサラっと分けて、テーブルに置く。


皿を片付けて洗い、食器を拭くき棚にしまう。

テーブルをさっと拭きケチャップをしまう。


顔を洗い、歯磨きをして、鏡の前で口をアイウエオと大きくあけて軽い体操をする。

フェイスパックをしたまま、結んだ髪をほどいて整える。

もともとストレートの髪質で痛みもなく手入れがしやすい。


大きく手を上げて深呼吸をした。心を整える。

自分らしく、頑張ってこよう。


荷物を持って、家を出る。

腕時計は、約束の時間の7分前を指している。

待ち合わせ場所に立ち、車を待つ。


時間通りに白い車が奈美を迎えに来た。


「仁井田奈美さん、おはようございます。今日は夕方まで試験審査を行います。体調は大丈夫でしょうか。」


「はい。大丈夫です。よろしくお願いします。」


「ここから約1時間半、車で走った所で試験を行います。現地までの場所を特定されないため、アイマスクで目隠しをしていただきます。こちらをお付けください。」


オレンジ色のアイマスクを受け取り、装着する。

ん…なんだか緊張してきたかも。やばい。






約1時間半車に揺られ現地に到着した。

途中でかなり道が悪い所を通った。

目隠しをしてる事もあり急に不安感に襲われ、とてつもなく長い時間に思えた。


チチチチチ…


鳥の鳴き声が聞こえる…


「仁井田奈美さん、アイマスクを取ってください」


アイマスクを取る。見渡すと10畳くらいの部屋。

真ん中に椅子が1脚、その対面に3脚置かれていた。


(最初に面接やるのか…。)


壁の時計は9時40分を指している。


「携帯など、外部と連絡が取れるものはお持ちですか?情報漏えい防止のため、お帰りまでこちらで預からせて頂きます。」


奈美はバッグから携帯を取り出し、運転手に渡す。


「ありがとうございます。こちらの椅子に座って少しお待ち下さい。今呼んでまいります。」


運転手はドアを閉め、廊下から聞こえる足音が遠くなった。


5分経っても誰も来ない。遅いなぁ。


この待ってる時間もどこからか見られてるのかも。背筋をのばしたままでさすがに疲れてきた。

何度も姿勢を正し直していると、ドアが開いた。


サッと立ち上がり会釈する。

男性、女性、男性の順で、スーツを着た人達が入ってきた。会釈して椅子に座る。



「お待たせしました。仁井田奈美さんですね。早速これから面接を行います。あっ、どうぞおかけください。」

一番左端の男性がニコッと笑みを浮かべながら話しかける。


「はい。本日はよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。仁井田奈美さんの簡単な自己紹介をお願いします。」

「はい。仁井田奈美、25歳、住宅展示場で受付をしております。趣味は読書、運動です。」


「はい。…奈美さんに質問です。これまで色々と大変な目にあったようでご苦労されましたね。応募動機に普通の人生を送りたいとありましたが、一番はどんな事を望みますか。」

「はい。今まで人間関係で苦労してきたので、目立たずひっそりと平凡な生活を望んでいます。本当に疲れてしまって…」


「分かりました。かなり深刻なようですね。ありがとうございます。これで面接は終わりです。簡単なアンケートがあるので、こちらにお書き下さい。」


ペンと紙を渡され、一つの質問が書いてあった。

すぐに書き終わり、男性に渡す。


「次は健康診断を行いますので、私の後についてきてください。」

「はい。」


4人はぞろぞろと縦一列に歩く。



どこまで歩くんだろう。新しいし広い建物だなぁ。



ホールに着くと、そこには検査する場所がそれぞれ設置されている。


「仁井田奈美さん、こちらで健康診断を行います。血圧、身長、体重、採血、尿検査、心電図の順で行っていきますね。」

(さっきの面接の時の女性が担当か。)


誘導されながら、次々と検査をしていく。

30分ほどで全ての検査が終わった。


「おつかれさまでした。午前中の試験が終わりましたので、休憩室で13時までお休みください。時間になったら、部屋まで迎えに行きます。では、こちらです。」


進んだ先に部屋があるようだ。1分ほど歩くと『休憩室』と書かれた部屋があった。



10畳ほどの広さで、休憩するには十分広い部屋だ。

テレビ、ベッド、テーブル、ソファ、電話、洗面所、アメニティ、トイレが備え付けられていた。

窓は一つもなかった。


テーブルの上には、雑誌、お菓子、弁当、飲み物が置いてある。


『ご自由にお召し上がり下さい』と書かれたメモがある。


時計を見ると、10時40分を指していた。


スリッパを脱ぎ、ベッドに横たわる。

(午前中なんとか終わった。少し緊張したな。午後は体力テストとあと他に何かありそうだな。)


ベッドの上で大きく伸びる。あー伸びるとスッキリする。起き上がり、足を曲げてストレッチをする。


しばらくストレッチをすると、今度は化粧品をバッグから取り出し、洗面所に向かう。


メイクを落とし洗顔をする。

すっきりしたい時や頭を切り替えたい時、奈美はメイクを落とす。

スッピンになると素の自分になれるから。仕事場でもたまにやっている。


ソファに座り、時計を見ると11時半を指していた。

少し早いけど、弁当を食べ始める。

野菜炒め、きんぴらごぼう、サラダ、ミニハンバーグ、漬物、梅干しが乗ったご飯。

野菜がたくさん入った好みの弁当だ。


12時少し前に食べ終わり、洗面所で歯磨きをする。

次にメイクを始めた。


奈美は、顔がはっきりしてるから軽くメイクするだけでも映える。いつもメイクに時間はかけない。

10分ほどでメイクが終わった。


メイク道具にも特にこだわりは無く、ドラッグストアで目についたものを選んでいつも買っていた。


まだ13時まで少し時間があるので、部屋を少し見て回ろうと考えた。


まずは洗面所。鏡の左右に開ける所があり開いてみても何もない。足元の扉にも何もなかった。


こんな調子で、ありとあらゆる扉を開けては締めて、何か入ってないか確かめる。

一つくらい何か入ってても良さそうなのに、何も入ってない。


つまんないなぁーと思いながら机の引き出しを開けようとすると、あれっ、開かない。

よく見ると鍵が掛かっている。


(2箇所に鍵?ここに何か入ってる?すごい気になる。)


引き出しに何が入ってるのか分からず、モヤモヤしたまま見る所もなくなりソファにもたれる。


(ダメダメ。鍵のことは忘れよう。午後の試験に集中しないと。)


テーブルに置いてある雑誌を読みながら、気持ちを切り替えていく。



『コンコンコン』


「仁井田奈美さん、午後の試験が始まります。こちらへどうぞ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る