第4話 引き寄せた

ピピピピピ。


目覚まし時計が鳴り響く。


『今日は休日よ。ゆっくり寝れるのに消すの忘れてたわ』


ゆっくり寝るはずの休日。


目覚まし時計に起こされて布団を出る。


歯を磨きながらあの女性の言葉がまた蘇ってきた。


『人生を楽しんで』


人生を楽しむ…。


心の中で女性の言葉を復唱しながら忘れていた映画の存在を思い出す。


学生の頃から大好きな俳優さんが出ている映画だ。


朝食を済ませ外出する準備を始めるリリコ。


化粧をしながらまた鼻歌が始まっている。


昨日の出来事を思い出しているのである。


マスカラの量がいつもより倍になっている。


完成した自分の顔を鏡で眺めながらにっこり笑ってみる。


笑顔の練習をしているようだ。


揺れ始めた心の波はリリコの表情も明るくしていた。


映画館に着きポップコーンと飲み物を買い席につく。


意外と人が少ないわね。


辺りを見渡し明かりが消えるのを待っている時だった。


『間に合った~』


すぐ後ろで声がしてリリコは思わず振り返る。


え?


見た事ある。


見た事あるってあの人じゃない!


そうあのケーキ屋さんの彼だ。


心の中が激しく波打つ。


『あ!』


ケーキ屋の彼もリリコの事を覚えていた。


『こんにちは』


2人が挨拶を交わした瞬間照明が暗くなった。


顔をスクリーンへ向けるリリコ。


こんなところで会えるなんて。


びっくりした気持ちと嬉しい気持ち。


終わったら声をかけてみてもいいかしら?といろんなことが頭をよぎる。


さらに照明が暗くなり本篇がスタートする。


大好きな俳優さんが登場し映画に入り込むリリコ。


かっこいい姿にまた心の波が揺れ始める。


だがふとした瞬間後ろの彼の存在を思い出す。


こんなに落ち着かない映画初めてだわ。


ポップコーンを食べながら心の中で声がしている。


リリコの心の波は激しく揺れていた。


大好きな俳優さんに揺れているのか、


後ろの彼に揺れているのか、


あっという間にエンドロールを迎えた。



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