第10話あの日の青春

正樹は耳を疑った。

「オレが原因なの?」

めぐみは頷いて、ロックを口にした。

「高校の入学式の時から、正樹が気になってたんだ」

「ほいでほいで?」

「カッコいいなぁ~って。部活の勧誘で弓道部の人と仲良く話していたから、私も弓道部にしたんだ。それからは、めちゃくちゃな部活だったけど、たまに君とキスしたり、色んな事すると、君が好きなんだって気付いたの。そこから、私は性が違うんじゃないかって。女性になりたかったの。でも、田舎じゃ理解が少ないし、関東に逃げたんだ。それから、薬で女の子っぽくなって、光一から、めぐみになったのね」

正樹はチェイサーをゴクッと飲んだ。酔うとめぐみは正樹を君と呼ぶ事に気付いた。「22年前同窓会で君と再会したとき、いずみちゃんと結婚を約束しているの聞いて、君を諦めたんだ。君に迷惑かけられない。その後、女性に向けて頑張ったの。一応、彼氏出来たんだけど、どれも上手く行かなくて……。3ヶ月前に彼氏と別れて、こっちに帰ってきたの。そして、前の様じゃなくていいから、君とヒロキ君とあの時の様にじゃれあってみたいなって思ったの」


正樹は紫煙燻らせながら、聴いていた。

「めぐみ、オレもヒロキも妻帯者だから、昔の様に遊べないけど、それで良ければこっちは構わんよ!」

「ありがと。君は昔から優しいし、包容力があるよね。22年間、この事がずっと言えなかった、誰にも。でも、今夜、スッキリしたよ」

正樹は灰皿にタバコを押し付けた。

「仕事はどうする。退職金だけじゃ、心細いだろ?」

「うん。それもそうだけど、私はこんなだし、働く会社なんて見つかんないよ!きっと」

彼女はグラスに目を落とした。

「めぐみ、うちの会社で仕事しないか?」

「えっ?」

「オレさ会社である程度、上なのよ。今、人手が足りなくてね。輸出用の中古車のチェックだけど」

彼女は暫く考えて、口を開いた。

「正樹君に頼っていいかな?」

「もちろん。ヒロキもずっとめぐみに会いたい。遊びたいってこの前まで言っていたから、ヒロキも安心すると思うよ。うちの会社なら。また、3人で、あの日の青春を楽しもうぜ」

めぐみは目を赤くしている。

「めぐみ?泣いてんのか?」

「ば、バカ。欠伸だよ、欠伸」

正樹は腕時計を見た。10:15を表示していた。

「じゃ、めぐみ!履歴書もってうちの会社にこい。詳しくはまた連絡する」

お会計を済ませた、正樹はじゃあな。と、めぐみに言って去って行った。

めぐみは、ずっと遠退く正樹の背中を見つめていた。


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あの日の青春 羽弦トリス @September-0919

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