第9話椿入者の言い訳

正樹は暫く沈黙していた。何故、めぐみが千代に現れたのか?

昔、成人式の日にこの店で三次会を誘ったが、光一はビジュアル的に問題のある千代を嫌がって帰ってしまったと言うのに。

めぐみと田山は、談笑している。

「先輩、ダメじゃないですか~、こんな女の子と浮気しちゃ!」

「た、田山、違うんだ。コイツは同級生なんだ」

「もう、いいですって先輩。誰にも言いませんから」

めぐみは生ビールを飲んでいる。

「田山、実はこの女の子は……」

「あたし、まー君の彼女でーす」

「な、なんだと!光一っ!」

「先輩、今夜はありがとうございました。また、誘って下さい」

田山はニヤニヤしながら、帰って行った。

「光一!お前な~、何、考えてんだ?」

「かわいかったな~、あの子」

「かわいかったな~、じゃないよ!あたしゃ、怒るよ~」


めぐみは、焼き鳥を男らしく食べていた。

「正樹君、もう、光一じゃないの。めぐみなの」

「名前はめぐみだけど、焼き鳥の食い方、男だぞっ!」

「焼き鳥は男らしく食べなきゃ」

正樹はビールのお代わりを注文して、腕組みしながら呟いた。

「めぐみ、何があったんだ」

届いた、ビールを飲みながら返事を待った。

「正樹は、トランスジェンダーって言葉知ってる?」

「ああ、忘れるもんか。あれだろ、自動車がロボットになるやつ?」

「それは、トランスフォーマー。バカッ!」

「悪い、性の障がいだろ?」

めぐみは頷く。そして、男らしくハツの串を食べている。

「性同一性障害」

「知ってる。LGBTQ問題だろ?オレは会社の講習会で勉強したよ。会社にも、そう言う障がいの子がいてね。でも、オレは当事者じゃないから、分からないんだ」


「正樹君、今日は私に付き合って!」

「な、なんだよ?」

「バーボン飲みたい」

「ば、バーボンか~。いいよ。でも、今夜は11時までには帰るよ!」

「まだ、8時。ここ、ご馳走するから」

「わ、分かった」

2人は、正樹がヒロキと良く利用するバーにいた。オールドクロックと言うだっさい名前の店だが、マスターの人の良さに惚れこんでいるのだ。

そして、正樹はターキーをストレートで飲み、すかさず、チェイサーを飲み込む。口の中で甘い香りが漂う。

これを3回ほど繰り返した。

めぐみは、ロックで飲んでいる。

「正樹君、トランスジェンダーに気付いたのは、君との出会いだよ」

「えっ?もっと詳しく」

めぐみはロックグラスの氷をかき混ぜていた。

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