第8話田山との酒

あのハシゴした日の翌日が日曜日で助かった。

いずみにこってり絞られたが、光一の話をすると、許してもらえた。

光一は向こうで何があったのか?……。


月曜日も朝から、太陽が本気を出し中古車のチェックはキツい。ヤードに停まる車内がサウナと同じなのだ。部品取りの水没車なんか、臭いのなんの。

今日もまた、後輩の田山と組んで、1200台のチェックを明日の夕方までに終了させなくてはいけない。

正樹は腕時計を見ると、10:05を表示していたので、10時の休憩にした。


事務所に戻り、正樹は冷たい缶コーヒーを田山に渡した。

田山は頭を下げる。

「田山、子供は男の子?女の子?」

「まだ、今はわかんないです。しかも、僕がパパになるなんて、信じられないんです」

正樹はブラックを飲みながら、

「分かる。オレも一緒だったよ」

「ほんとスッか~?」

「よ~し、悩める男子よ!今夜、飲みに連れて行ってやる。もちろん、オレのおごりだ」

「まだ、150台しか終わってないですが?」

「オレの本気を見せてやるよ!スーパー正樹君を」

2人はクスクス笑いながら、またヤードに向かった。


夕方6時。

正樹と田山は着替えて、居酒屋千代に向かう。

今日は、1時間の残業になったが、明日は残り400台のチェックをすれば良い。

スーパー正樹君は本物だった。1日で800台チェックするとは。

「よっ、ババアこんばんは」

「あら、正樹ちゃん、こんばんは。まぁ~今日はカッコいい子を連れて来ちゃって!うちのりーちゃんを狙わないでね」

千代は正樹と長い付き合いだから、軽口もたけるのだ。

「ほら、田山。今、注文取りに行ったのが、看板娘の凛ちゃんだ。ここのババアの孫

だ」

田山は、興味が沸かないらしい表情で、カウンター席に着いた。


「では、田山君のパパデビューを祝って乾杯」

「まだ、子供はお腹の中です」

「パパには変わりないだろ?」

「ま、ま~」

「若いんだから、じゃんじゃん食え」

正樹は気分が良いようだ。彼はニンニクスライスたっぷりの、カツオのたたきを頬張る。

「に、西さん。ニンニク食ったら、明日会社でプンプンしますよ!」

「いいじゃないか。プンプンしたって」

田山はニンニクではなく、ショウガでたたきを食べた。まだ、彼は27歳なのだ。

スポーツは、バトミントン部だったらしい。


すると、突然、正樹は声を掛けられた。

「お隣、いいですか?」

「どうぞ、どうぞ」

と、振り返った。

「こ、光一?否……め、めぐみ?」

「こんばんは」

「どなたですか?」

田山は正樹に質問する。

「高校の同級生」

「またまた~、20代じゃないですか?君、20代だよね?」

「うん」

「ほら~、先輩」

正樹は状況を整理するのに、タバコを吸いながらしばらく沈黙した。


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