第6話変身

「お、お姉ちゃん冗談はやめようや」

正樹はさっき、驚いて声をあげたが努めて冷静に言う。

「弓道部のキャプテン西正樹君と変態の鵜飼宏樹君だよね」

本物だ!

2人は光一に聞きたい事が山ほどあるが、取り敢えず座布団に座ってもらおうとしたが、正樹側かヒロキ側か揉めた。

「さっ、ヒロちゃんの隣に座りなよ!」

「なっ、ここはキャプテンの隣でしょ?」

「遠慮するなよ、べっぴんさんはヒロキが似合う」

「キャプテンはあそこもキャプテン並なんだから、僕に気を使わないで!」

そんなやり取りを前に、光一はじゃんけんで決めれば良いと言った。じゃんけんに負けた人の隣に座ると言う。

じゃんけんはヒロキが勝った。

光一は正樹の隣に座る。香水のいい匂いがする。


光一が生ビールを注文しようとしたら、仕切り直しと言う事で焼酎は後回しにして、3人とも生ビールを注文した。

乾杯の音頭はヒロキに任せた。

「え~、まだ5月と言うのに暑い日が続いています。皆さまにおかれましたは、高校時代とお変わりなく……」

「お、おいっ!」正樹が合図する。

「い、いっけね。……ま、乾杯」

3人は軽くジョッキをぶつけ、生ビールを流しこむ。

光一は喉を鳴らして、ゴクゴクと生ビールを飲んでいる。一口で、ジョッキのほとんどを飲んでしまった。

「あんさん、酒強いね」と、正樹が言うと、

「だって、喉渇いていたもんね」

「キャプテン聞いただって。やっぱり、光一は九州男児だっ」

「ば、バカ」

「いっけね。僕、また悪い事言っちゃった」

「ヒロキ君、気を使わなくてもいいよ。正樹君も。私、気にしないから」

「……し、しっかし、光一聞きたい事の山はあるが、1つずつ崩そうと思うんだけど、向こうで、一体、何があったんだい?」

光一は生ビールのお代わりを頼んで、

「まだ、言えない。私が酔ってから」

「な~に~、オレ達、相当のんでるの。リバースタイムが近いのよ」

ヒロキが口を挟む。

「僕ら、もう中年だから、光一君頼むよ」

「ダーメ。酔ってから。そして、私もう光一じゃないの」

「なになに、見た目だけじゃ無くて、名前も変わったの?」ヒロキが食いついた。

「うん」

「めぐみなの」

「な~んだ、ありきたりの名前だな」

正樹はタバコを吸いに店を出た。

なんだ、光一のヤツ。いや、めぐみは。あのミルクタンク、シリコンかな~。よし、今夜謎を解いてやろう。

男から女に変身しやがって!カフカもビックリだぜ!


正樹が席に戻ると、2人は笑っていた。

「お似合いだね~、お二人さん」

「今ね、高校時代の話しで盛り上がってたんだ。僕が見栄を張って股間にペットボトル挟んだ事件とか」

「ヒロキ君はいっつも、キャプテンに対抗してたからね」

「だって、キャプテンあの頃、マンガのエロ本みたいに彼女がいて、ヤりまくっていたからさ」

正樹は黙って、焼酎のお湯割りを作り静かに飲んでいた。

「めぐみは、次何飲む?」

「ハイボール」

「めぐみちゃん、ハイボールならここに2つあるよ」

と、ヒロキは股間を指差した。

「バッカだな~」

と、正樹は笑顔になっていた。

めぐみはハイボールを濃いめにと、大学生アルバイトに注文していた。

我々は3人とも、42歳なのだがめぐみは20代に見えた。


「め、めぐみちゃん、その胸作り物?」

「そうだよ、オレもしたい質問だ」

すると、店員が近寄り注文品を持って来た。

「ハイボールお持ちしました~」

「ありがとう」

めぐみは、ハイボールを一口飲んだ。

「やっぱり、ウイスキーは安物がいいね、あっ、胸?これ、本物」

2人は意味が分からなかった。

「ホンモノって、どういう事なの?」

ヒロキはストレートに尋ねた。

「女性ホルモンって、知ってるよね?それ飲むと、胸が大きくなるの。今はDカップまで養殖したよ!」

正樹はどんな感触か試したかったがやめた。

今度はヒロキが喫煙所へ向かった。


「これから、ずっと九州に住むの?」

「うん、そのつもり」

「関東は住みづらいの?」

めぐみは少し間を開けて

「彼氏と別れたんだ。で、もう何もかも嫌になったの。会社も辞めたし。退職金は出たけど。しばらくは実家は色々五月蝿いから、アパート暮し」

「一体、何で女になったんだ?」

「まだ、酔ってないから話せない」

「早く酔ってくれよ!」

「まだ、11時過ぎじゃん。楽しまなきゃ」

ヒロキが戻ってきた。

「2人でキスしてた?店員にズッキーニ注文しようか?」

「それ、何に使うのよ?」

「……」

だんだんヒロキが壊れつつある。また、正樹も欠伸し始めている。

真相聞いてどうする?ヒロキと正樹は店内で眠り始めた。






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